クリスマスマーケットの怖い話

クリスマスマーケットは、ドイツを中心に始まったといわれヨーロッパ各国で伝統的なクリスマスのイベントとして毎年盛り上がりを見せる。
煌びやかなイルミネーションに囲まれ、何軒もの露店が並び、グリューワインなど、寒い冬にぴったりのあたたかいクリスマスグルメの数々や、クリスマスツリーを飾るオーナメント、クリスマスプレゼントが売られている。
この季節、日本でも本場ドイツのマーケットを模して、各地でクリスマスマーケットが開かれている。

これは、そんなクリスマスマーケットで、大学生のSさんが体験した怖い話。

ある年、Sさんは、大学の同級生に誘われ、数人でクリスマスマーケットを初めて訪れた。
広い公園に、イルミネーションに彩られた露店が並び、会場の各地で大道芸人やダンサーが踊り、ステージでは外国人の歌手がクリスマスソングを歌っている。
まさに冬のお祭りという感じだった。
Sさんは、クリスマスマーケットの存在をそれまで知らなかったので、全てが驚きの連続だった。
どの露店も行列ができていて、大変な賑わいだった。
ようやくグリューワインとソーセージ詰め合わせなどの食材を買い込んで、Sさんたちは休憩スペースに向かった。
クリスマス時期の週末ということもあって、会場はどこもかしこも人だらけで、満員電車のようだった。
人垣をかきわけ進んでいると、頭一つ分飛び出た目立つ赤い帽子が見えてきた。
台の上に、人間サイズの精巧なサンタクロースの置物が置かれていた。立派な白い髭にふっくらとした赤ら顔。ケンタッキーのカーネルサンダースの置物みたいだなという言葉がどこかから聞こえてきた。

そのサンタの置物の横を通り過ぎる時、ふいに、Sさんは肩をグイッと後ろに引かれた。
何事かと振り返ると、サンタの手がSさんの服をギュッと握りしめ、見開いた目玉がギョロッと動き、Sさんを見下ろしたではないか。
ヒッ!
素っ頓狂な声を出してSさんは尻餅をつき、せっかく買ったグリューワインを地面にぶちまけてしまった。
・・・ヒトなのか?
改めて見ると、サンタは静止していて固まっていた。
人間が彫像のフリをするパントマイムがあるが、アレなのだろうか。
サンタの前で尻餅をついたSさんの周りだけ人垣が割れ、通り過ぎる人が邪魔そうき怪訝な顔つきをしていた。
「なにやってんだよ!」
友人に促され、Sさんは、とにかくその場を離れることにした。

休憩スペースにたどり着くと、Sさんはさきほどあった顛末を友達に説明したのだが、みんなキョトンとして、あのサンタは人間ではなく間違いなく置物だったと信じてくれない。
Sさんは絶対に人間だったと譲らず、結局、後で改めてみんなで確認に戻ることになった。

時間が遅くなると、混雑も解消してきて、サンタの周りの人垣もなくなっていた。
Sさんは、あらためてサンタをつぶさに眺め、触ったりしてみたが、それは人間などではなく、間違いなく置物だった。

「もしかしたら、俺たちが休んでいる間に置物と人間が入れ替わったのかもしれないだろ」
Sさんは、苦し紛れに言ってみた。
「そんなわけないだろ!」
ビビりだなぁ、友人達が笑ってからかうのでSさんはムッとした。

そろそろ帰ろうぜ、さんざんSさんをからかった後、友人達は会場の入り口に向かった。
Sさんはモヤモヤとした気持ちのまま友人達の後ろに続いた。
・・・確かに動いていたのに。
わけがわからず困惑するしかなかった。
と、どこからか、女の子の泣き声が聞こえてきた。
振り返ると、女の子がサンタの置物の前で泣きじゃくっていて、両親が慌てて駆けつけているのが見えた。
泣きじゃくる女の子を見下ろすようにサンタの置物が立っている。

あの女の子ももしかしてサンタに何かされたのか、、、?
Sさんの目には、微笑みをたたえるサンタの置物が邪悪なモノに見えてしかたなかったという。

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