【怖い話】ホラーハラスメント

S部長は自他共に認める大のホラー好きだ。
会社の飲み会では最近仕入れた怪談話を披露するのがお約束になっている。

ある日の飲み会でのこと。
S部長がネットで見つけた怪談話を披露すると、女性社員達から「怖い〜」と悲鳴が上がった。
狙い通りの反応にS部長はご機嫌だった。

と、1人の女性社員がS部長の横に座って言った。

「S部長、ホラハラに気をつけてくださいね」
「ホラハラ?なんだね、それは」
「ホラーハラスメント。聞きたくもない怪談を無理やり聞かされるハラスメントです」

S部長は思わず笑ってしまった。
ホラーハラスメント?そんな言葉、聞いたこともなかったからだ。

「ホラーハラスメントなんて、そんなものがあるのかね」
「あるんです」
「最近はなんでもハラスメントになるね」
「笑い事じゃありませんよ。こんなホラハラにまつわる話があるんです」

そう言って女性社員はS部長に語り始めた。

「私の知り合いにTくんという営業マンがいまして、 Tくんは口達者なので営業成績もよく社内で人気者でした。飲み会になれば、Tくんを中心に話が回る、そんな感じだったんです。ある年の夏、部署の飲み会があって、酔いも回った頃、Tくんは、夏だし、怪談話でも披露しようかと切り出しました。同僚たちは待ってましたとばかりに盛り上がりました。でも、たった1人、反応が違う子がいました。部署の新人の女の子Yさんです。Yさんだけは、顔面蒼白でブルブル震えています。聞くと、Yさんは、大の怖がりで怪談が苦手だというのです。ホラー映画も大嫌いで、今まで絶対に見ないように避けてきたといいます。
『お願いします、怖い話はやめてください』
Yさんは懇願するように言いました。
でも、TくんはYさんのその反応にかえっていたずら心に火がついてしまい、そのまま怪談話を語り始めました。
『これは俺のトモダチから聞いた話なんだけど』
なんの変哲もない、ネットで見つけたよくある怪談話でしたが、口達者なTくんの語り口にみんな固唾を飲んで聞き入っていました。
異変は話が中盤にさしかかった頃、起きました。
Yさんの様子がおかしいことに周りの社員達が気づきました。玉のような汗をかき、ガタガタ震えています。血の気が引いて顔色も悪かったそうです。『大丈夫?』と声をかけてもYさんは反応がありません。しまいには、床に仰向けに倒れて、てんかんのような発作をおこしてしまいました。口からは泡をふいています。ようやく、ただごとじゃないとなって救急車が呼ばれましたが、Yさんはそのまま亡くなってしまいました。
原因不明の心臓発作だったそうです。
・・・Yさんが死んだのは、Tくんの怪談話のせいじゃないか。Yさんの死後、そんな噂が社内で広まりました。あれほど怖がっていた人に怪談話など聞かせたせいで発作に繋がったのではないかというわけです。当然、噂はTくんの耳にも入りました。すると、あれほど明るくコミュニケーション能力もあったTくんが、次第に暗く塞ぎがちになり、仕事もままならない状態になってしまい、しまいには心の病気で強制的に入院させられてしまいました。Tくんは奇声を上げながら、『枕元にYさんが立つ』と会社で暴れたんだそうです・・・どうでしたか。ホラハラって怖いでしょう」
語り終えた女性社員は、薄い笑みを浮かべている。
「部長も気をつけてくださいね。怖い話ばかりしていると、恐ろしいモノを引き寄せてしまうかもしれませんよ」
女性社員はスッと立って部屋の外に出ていった。

S部長は、酔いがすっかりさめて、背中に嫌な汗を感じた。
周りの社員達の楽しそうな声が遠くに聞こえる。
S部長は1人、別世界にいるような孤独感に襲われた。
と、S部長は、あることに気がつき、全身に震えが走った。

あんな女性社員、うちの部にいたか、、、
、、、いや、いない

その後、S部長が飲み会の席で怪談を話さなくなったのは言うまでもない。

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