隅田川テラスの怖い話

隅田川は東京湾に注ぐ全長23.5kmの河川で、その両岸の多くは舗装され散策路になっており、隅田川テラスと呼ばれている。

中でも、浅草近辺の吾妻橋から蔵前橋までは夜になるとライトアップされ、横手にはライティングされたスカイツリーがそびえる絶景となっている。
隅田川テラスは街灯が多く夜でも明るいので、ジョギングする人やベンチに座って夜景を楽しむ人達などで夜がふけても賑わいがある。

これは、そんな隅田川テラスでSさんが体験した怖い話。

Sさんは20代後半の会社員。
夜に家の近所の隅田川テラスを散歩するのが日課だった。
風に当たりながら夜景を眺めて歩く。
それだけで気分転換になり日々のストレスをリセットできるのだ。

そんな、ある日のこと。

その日も夜の22時頃に、Sさんは隅田川テラスを浅草方面に向かってテクテク歩いていた。

Sさんと同じように散歩する人、ジョギングする人、カップル、グループ、釣り人、いつものように隅田川テラスは夜でも賑わっていた。
それなりに、ひとがいるのも夜の散歩に適した条件の一つだ。
蔵前橋を過ぎるくらいまでは、そんな感じで、いつも通りだった。

蔵前橋から厩橋に向かう途中で、後ろからハイヒールで歩く足音が聞こえ出した。

コツコツコツコツ

ハイヒールがタイルを打つ硬い音がする。

しばらくそのまま歩いていたが、ハイヒールの女性とSさんの歩くペースが同じくらいのようで、足音は同じ距離を保って聞こえてくる。

コツコツコツコツ

次第に音が気になってきて、Sさんは足を止めて横にスッと避けて、女性に前へ行ってもらおうとした。

すると、不思議なことが起きた。
ピタッとハイヒールの音がやんだのだ。
しばらくしてもハイヒールの女性はSさんを抜いていかない。
振り返っても、そんな女性はいなかった。

変なこともあるもんだと首を傾げ、再びSさんが歩き出すと、しばらくしてまたハイヒールの足音が後ろから聞こえてきた。

コツコツコツコツ、、、

またも一定のペースでSさんの後ろをぴったりハイヒールの音がついてくる。

なんなんだよ、、、やっぱりいたのか、、、

Sさんは、イライラと足を止め、今度こそ抜いてもらおうと、足を止めて横にズレた。
しかし、その瞬間、またも足音はピタッと止んだ。
振り返っても女性の姿はなく、薄ぼんやりとした散策路が見えるだけだった。

ハイヒールの音はするのに姿は見えない。
それは、つまり、、、
Sさんは背筋が寒くなった。
逃げるように走り出して、厩橋で隅田川テラスを抜けた。
ときおり後ろを振り返ってみたか、あとをつけてくる女性の姿は見えない。
息があがり心臓がバクバクした。

いったい、さっきのハイヒールの音は、、、
考えても答えは出なかった。

Sさんは、その恐怖体験を後日、友人に居酒屋で話して聞いてもらった。友人が「勘違いだろ〜」と笑い飛ばしてくれたおかげで、少しだけ怖さが薄れた気がした。

お酒も進みSさんがトイレにいって戻ってくると、友人が青ざめていた。
どうしたのかと尋ねると、友人は震える声で言った。

「お前がトイレに向かった後、ハイヒールの足音が聞こえたんだ、、、まるでお前の後をつけていくみたいに」

Sさんは唖然とした。
どうやらSさんの恐怖は、まだ終わってはいないようだった、、、

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