【怖い話】ツクリバナシ

大学生のTさんの友人に、怖い体験談を豊富に持つIくんという男の子がいた。
Iくんの体験談を聞いた人はみんな口を揃えて怖かったといい、中にはしばらく寝られなくなってしまう人もいたほどだという。

ところが、ある飲み会の席でのこと。
酔ったIくんは、Tさんに、怪談は自分の体験談ではなく全て作り話なのだとぽろっと打ち明けた。
言ってから「しまった」と思ったのか、IくんはTさんに、誰にも言わないで欲しいと頼んできた。
Tさんは、作り話で怖い思いをさせられてきたのかと腹立たしい気持ちになった一方、Iさんの口のうまさに感心もしてしまった。

それからもIさんは友人達の集まりでたびたび怪談を得意気に披露するので、Tさんは複雑な気持ちになったが、誰にもIさんの秘密をバラしたりはしなかった。

ところが、翌年の夏。
ある飲み会の席でのこと。
夏らしく「怖い話」を披露する流れになり、定評のあるIくんの怪談を心待ちにする人達に促され、Iくんがいつものように怪談を話し始めた。
その日、Iくんが語ったのは、大学のトイレで体験した怖い話だった。
逢魔時に大学のトイレを使ったら男子トイレに女子生徒がいて、という怖い話を朗々と披露する。
Tさんは、また作り話かと話半分で聞いていたのだが、話の途中からIくんの様子が明らかに変わったのに気づいた。
周囲を気にするように目を泳がせ、額には脂汗が浮かび、手は震えている。
いつもの自信たっぷりに語るIくんとは違った。
周りの友人達は怖さを出すための語りの演出だと思ったのか気にしていないようだが、Iくんの創作だと知るTさんは、今日は何か変だと思った。
Iくんの話は、珍しくオチらしいオチもなく、しり切れとんぼで終わった。
Iくんは話し終えると、慌てた様子で一服しに店の外に出て行った。
Tさんは気になってIくんの後を追った。
Iくんは、灰皿の前で、一点を見つめ、電子タバコを吸っていた。
電子タバコを持つ手はカタカタと震えていた。
Tさんは「どうしたの?」と声をかけた。
「話してる途中で聞こえたんだ・・・」
ボソリとIくんがつぶやく。
「聞こえたってなにが?」
「・・・『私の話をしないで』って。女の声が」
「え・・・でも、さっきの話も作り話なんだろ?」
「・・・うん」
Iくんの創作怪談が本物の霊を呼び込んでしまったのだろうか。
ついに実際に恐怖体験をしたのに、Iくんは喜ぶどころか、心底怖がっているようだった。
それからというもの、Iくんはどんなに頼まれても一切怪談を語ることがなくなったという。

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