【怖い話】学校帰り

これはKさんが高校生の時に体験した怖い話。

Kさんは、当時、同じクラスのTくんと仲がよかった。
Tくんは帰宅部でクラスではあまり目立たない存在だった。
お互いゲーム好きということでウマがあい、ソフトの貸し借りをするうち、一緒に帰るようになった。

ある日、2人は今流行りの携帯ゲームを学校に持参し、放課後、学校近くのベンチに座って遊んでいた。
遊ぶのに熱中しすぎてしまい、気がつくと、夕暮れ時になっていた。

2人が通っていた高校は山間部にあり、家がある山裾の街までは、国道沿いの山道を20分ほど自転車で降りなければならない。

2人はゲームの攻略について議論を交わしながら次第に藍色に変わっていく国道を自転車で下っていった。

ふと、隣を走るTさんの自転車のスピードが遅くなった。
速さを合わせるためブレーキをかけないといけなくなり、Kさんは Tさんの方をうかがった。
すると、Tさんが唐突に話しを始めた。
「・・・この前、深夜にこの道を自転車で走ってたんだけどさ」
「深夜に?なんのために?」
Kさんは不思議に思って聞き返した。
高校がある国道沿いは雑貨を扱う店が一店舗あるだけで、他には何もない。
用がなければわざわざ来るような道ではないのだ。
「そしたら変なんだよ。誰もいないのに、誰かに見られているような視線を感じたんだ」
Tさんは、Kさんの質問に答えず話を続けた。
視線は遠くを見つめていた。
「気持ち悪いというか、怖くなってさ、俺、早く家に帰りたくてスピードをあげたんだ」
Tさんは怪談を披露しているのかとKさんは思った。
けど、怖いのが大の苦手でホラーゲームは全くプレイできないと言っていたそのTさんが自ら怖い話をするなんて、少し変な感じがした。
ふいにTさんが自転車のスピードをあげた。
置いていかれないよう、ブレーキを緩めてついていった。
「けど、どんなにどんなにスピードをあげて坂道をくだっても、誰かに見られている感覚が消えないんだ。周りを見渡しても真っ暗な山しかない。人も車もいなかった」
Tさんの自転車はさらに加速していく。
ついには、下り道なのにペダルを漕がないといけなくなった。
風を切る音で耳が痛い。

やがて前方に分かれ道が見えてきた。
右手が住宅地に続く道なのだが、なぜかTさんは左の脇道に進んでいこうとしていた。
「どこいくの!」
Kさんは大声で呼びかけたが、Tくんの自転車は曲がる気配もなく、吸い込まれるように左の道に進んだ。
仕方なくKさんも遅れて左の道に入り、慌ててTさんにおいついた。
「Tくん、どこいくの!?」
Tくんは返事をしなかった。
こんなことはじめてだった。
「・・・そしたら、前にトンネルが見えてきたんだ」
しばらく道を下ると、Tくんが口にした通り、300mほど先にトンネルが見えてきた。
怖い噂話が絶えないを旧道のトンネルで、たしか今は封鎖されていて通れないはずだ。
Tくんはこんな暗くなってからあのトンネルに向かうつもりなのか。
正気とは思えなかった。
「Tくん止まってよ!」
Kさんは声の限りに叫んだ。
けど、Tくんは止まるどころか、トンネルに向かうにつれさらに加速していった。
「あっちにいったらダメだ、、、そう思うんだけど身体が言うことを聞かなくて、、、自転車は坂道をくだって、ぐんぐんトンネルに引き寄せられていったんだ」
Tくんが話している通りのことが今まさに起きていた。
何度叫んでも、Tくんはスピードを緩めない。
Kさんの声などまるで耳に入っていない様子で、Tくんは目を見開いて、まっすぐ前を見ていた。
「このままじゃまずい、ぶつかってしまう。そう思った時にはもう手遅れだった」
トンネルの入口は鋼鉄製のフェンスでふさがれていた。
「ハッとして、慌ててブレーキをかけたんだけど、なぜかブレーキが全くきかなくて、スピードは落ちなかった、、、そして」
Kさんは、頭が真っ白になった。
Tくんが話した通り、本当に自転車のブレーキがきかなかったのだ。
この勢いでフェンスにぶつかれば軽い怪我ですまないのは確実だ。
隣を見ると、Tくんもブレーキハンドルを何度も握っているが、カスッカスッと軽い音がするだけで、全くスピードが落ちていなかった。
Kさんは咄嗟に、自分の自転車をTさんの自転車にぶつけた。
弾みで2人は地面に投げ出され転がった。
2人の自転車はそのままの勢いで走り続けて、山中に響き渡るほど大きな衝撃音をあげてフェンスにぶつかった。

Kさんは身体中が痛くてなかなか起き上がれなかった。
「・・・あれ?」
隣から素っ頓狂な声が聞こえた。
状況が飲み込めないという顔でTくんがキョロキョロあたりを見渡していた。

Kさんが事情を説明すると、Tくんはゲームを終えて帰り始めてからの記憶が一切ないとわかった。
さっきまでTくんが話していた怪談話も全く身に覚えがないし聞いたこともないという。
2人とも傷だらけだったけど、Kさんの捨て身の判断のおかげで大怪我をせずにすんだのが幸いだった。
とにかくこの場を離れようということになり、Kさんは痛む身体を無理やり起こして立ち上がった。
その時、Kさんの目に、あるモノが留まった。
トンネルの入口に置かれた献花。
枯れて茶色くなってしまっていたが、ここで誰か亡くなった人がいるのは明らかだった。
さっきまでTくんが話していたのは、もしかしたら、ここで亡くなった人が体験した怖い話なのか、、、。
Tくんはその人の念に引かれてしまったのかもしれないとKさんは思った。
けど、話していた内容が事実なら、ここで亡くなった人もまた、"何か"に引かれてしまったのだろうか、、、。

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