【怖い話】実録怪談を書くと・・・

これはライターのJさんから聞いた話。

Jさんは、ネット記事のライターをしているのだが、まれに実録怪談も寄稿する。
人から聞いた怖い話や取材で見知った怖い話を普段からまとめていて、ゆうに1,000話以上書きためているという。
その一部を時々、ネット記事で発表しているのだそうだ。
聞くと、Jさんは、ホラーやお化けが大の苦手だという。なのに、どうして、好きでもない怪談話をそれほど収集しているのか。不思議に思って聞いてみた。

「それが変な話なんだけどさ・・・」
Jさんは苦笑して話してくれた。
はじめは出版社の依頼で実録怪談を取材して記事を書いたのだという。
ホラーは苦手なので乗り気ではなかったけど、お金のためだったそうだ。
ところが、実録怪談を取材してから、身の回りでおかしなことが起き始めた。
Jさんは郊外の一軒家を両親から相続して独りで暮らしていたのだけど、防犯用に設置しているセンサーライトが人がいないにも関わらずしょっちゅう点灯するようになったのだという。
「まるで幽霊が通っているみたいだろ?」
その後もおかしなことは続いた。
ある時、見知らぬ番号から留守番電話が入っていて、聞いてみると、ゴーッと耳をつんざくような風の音がした。
その風の音の中に「早くおいで」と女性の声のようなものが混ざっていた。
風の音が女の人の声にたまたま聞こえたような気もしたけど、何度繰り返し聞いてみても「早くおいで」と聞こえる瞬間がある。
私もその録音を聞かせてもらったけど、たしかに「早くおいで」と聞こえるような気がした。

「怪談なんて取材したせいだと思ってさ、、、」
Jさんはお祓いにいくことにした。
ところが、お祓いをしても、奇妙な現象は続いた。
このままではノイローゼになってしまうかもしれない。
そう思ったJさんは、今まで起きたことを文字で書き起こすことにした。
文章にして書いてみたら、少しは冷静に受けとめられるかもしれないと思って、軽い気持ちではじめたそうだ。
1日もかからず身の回りで起きた怪奇現象を文章でまとめると、不思議なことに、その日からおかしな現象がピタッとやんだ。
「あぁ、これだったんだと思ったよ」
怪談を言葉にして閉じ込めることで、悪いモノを祓う効果があるのではないかとJさんは考えたのだそうだ。

怪奇現象の原因となったと思われるJさんが書いた実録怪談の記事は割と好評でリピートの執筆依頼が出版社から舞い込んだ。
Jさんは引き受けるか迷ったが、せっかく依頼をもらったのに断るのも悪いし、引き受けることにした。
そして、新たな実録怪談の取材を始めると、また、身の回りでおかしな怪奇現象が起き始めた。
モノが勝手に動いていたり、寝る時に金縛りにあったり、怖がりのJさんは何かあるたびに心臓が飛び出そうなほど恐怖を感じたそうだ。
Jさんは、自分の体験をまた文字で起こしてみた。
すると、書き終えた日からピタッと怪奇現象はまたもやんだ。
それからしばらく実録怪談の執筆依頼はこなかったが、忘れた頃に、また怪奇現象には見舞われるようになった。
再び体験を文章に起こすと、ピタッとその現象はやんだ。
「どうも書き続けないといけないみたいでさ」
怪談話を書くのを中断すると、しばらくして、何かが起きるのだという。
なので、今では、積極的にそういった話を集めては書きためるようになったのだそうだ。
もちろん怪談話を集めるのも嫌なのだけど、怖い体験をするくらいなら、怪談を収集して書いている方がいくらかマシということらしい。
「もう体質だと思ってるよ」
そういってJさんはまた苦笑した。
いまだにJさんは、ホラーもお化けも大の苦手で慣れることはないという。

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