【怖い話】元カレ

Yさんは、20代の女性。
カラオケと買い物が趣味。
合コンにはよく呼ばれるが、ハメを外した派手な遊びはしない。
どこにでもいる普通の女と自分自身で思っていた。

そんなYさんには、交際3ヶ月になる彼氏がいた。
出会いは合コン。
Yさんは、1人の男性に熱中できるタイプではなく、交際はいつも短命で、長続きしない。
「結婚したい」と女友達には口では言いながら、フリーで遊ぶ方が気楽だと内心は思っていた。

ある日のこと。
彼氏がディズニーシーに行こうと誘ってきた。
実のところ、女友達ともよく行くので、年に何回も通っていた。
「またか」という気持ちだけで、全く嬉しさはなかったけど、彼氏の手前、喜ぶフリをした。

いけばいったで楽しいのがディズニーだ。
日が落ちるまでたっぷりアトラクションで遊んで、パレードを見ていると、
彼氏が「プレゼント」と言って、ネックレスをYさんの首にかけてきた。
Yさんは、そのネックレスを見て、ギョッとした。
見覚えがあったのだ。
ブランドも形も全く同じ。
数年前に1ヶ月だけつき合った元カレのTくんからもらったものと同じネックレスだった。
Tくんのことは嫌いではなかったが、嫉妬深い束縛に疲れて、Yさんの方から離れていった。
微妙な記憶を思い出したのが表情に出ていたのか、
「うれしくなかった?」と彼氏が聞いてきた。
「うれしいよ。ありがと」
Yさんは、とり繕うように言った。
よく考えれば、ディズニーデートでネックレスを贈るというのもTくんの時と全く同じシチュエーションだった。
数年越しに別の男から、全く同じことをされるとは思わず、Yさんは困惑した。
彼女が喜ぶプレゼント方法とかがネットでハウツー化されてでもいるのだろうか。
男性経験が浅い女なら喜ぶのかもしれないが、その時のYさんは、ただただ元カレと同じプレゼントに気味の悪さを感じ、すぐにでもネックレスを外したくてしかたなかった。

そんなこともあったせいか、そのカレとは数日後に別れることになった。
言い出したのはYさんからだったが、カレもすぐに引き下がった。
ネックレスまで贈っておいて簡単に引き下がったのは拍子抜けしたが、向こうにとってもそれくらい軽い恋愛だったのだろうと思った。

1ヶ月も経たず、新しい彼氏ができた。
出会いはまたも合コンだった。
つきあって1ヶ月くらいして、ディズニーシーに行こうと彼氏が誘ってきた。
つきあいたてで嫌だとも言い出しづらく、Yさんは、その年何回目かのディズニーデートに赴いた。
アトラクションにひととおり乗り、パレードを見ていると、彼氏がおもむろにYさんの首にネックレスをかけてきた。
まさかと思ったが、そのまさかだった・・・。
またも同じブランド、同じ形のネックレス。
「ひっ」と悲鳴をあげそうになった。
「・・・こ、このネックレス、流行っているの?」
うわずった声でなんとかそう絞り出した。
「え?わからないけど、お店偶然通りかかったら、Yちゃんに似合うかなと思って。つい買っちゃった。なになに?まさか元カレに同じのもらったとか?」
「まさか!そんなことあるわけないじゃない」
二度あることは三度あるというが、こんな偶然あるだろうか。
Yさんは、背筋が凍った。
気のせいだと思うが、ネックレスが首にねっとりとまとわりつき、とても重く感じた。

その彼氏とも長続きせず、結局3ヶ月もせず別れた。
その次の彼氏ができたのは2ヶ月後。
今度は少し慎重になって、つき合うまでに何度かデートをして様子を見た。
ところが、正式に交際することになった瞬間、またもディズニーデートに誘われた。
「ディズニー苦手なの」
Yさんが、きっぱりそう言ってみると、カレは残念そうな顔をした。
本当はディズニーシーで渡そうと思ったんだけどと言って、カレはネックレスが入った箱をYさんに見せてきた。
また同じネックレス!
Yさんは、取り乱し、逃げ出すようにその場を後にした。
カレから何度も電話がかかってきたけど、無視した。

ここまで偶然が重なるのは、どう考えてもおかしい。
その時、Yさんははじめて、この奇妙な偶然の原因はTくんにあるのではないかと思い至った。
別れて以来、一回もTくんとは連絡を取っていないが、Tくんが何らかの形でこの不可解な現象に関わっているのではないか。
Yさんは、久しぶりに共通の知人の男の子に連絡を取り、Tくんについて聞いてみた。
「Tくんって最近、どうしてる?」
「え?・・・あれ?聞いてなかった?T・・・死んだんだよ」
「え・・・」
Yさんは言葉を失った。
Tくんは、Yさんと別れて1年くらいして自殺していたことがわかった。
遺書などはなく自殺の原因はわかっていないという。
「T。Yちゃんに結構本気で惚れてたからな、それが理由だったりしてな」
笑って言われたが、Yさんには冗談に聞こえなかった。
まさか、亡くなったTくんが私を恨んで呪っている?
けど、たかが1ヶ月程度の交際相手を理由に自殺したり、何年間も恨む人がいるだろうか。
いくらTくんの気持ちを推し量ってみてもYさんには想像もできなかった。
TくんにとってYさんが初めての彼女というわけでもなかったし、どちらかというと遊び慣れている感じがしたのに・・・。

Tくんの自殺を知って以来、Yさんは、
男性と付き合うのが怖くなって、しばらくフリーでいた。
しかし、2年も経つと、その怖さも薄まって、久しぶりに男性とつき合ってみる決心をした。同じ会社の先輩で、向こうからYさんを誘ってきた。

「ディズニーだけは行かないから」と交際当初から伝えていたおかげか、交際して順調に数ヶ月が過ぎた。
趣味も変わるもので、最近では、彼とドライブして温泉にいったりまったり過ごすのが楽しい。
この人とならそろそろ身を固めてもいいかなと思い始めてきた。
そんなある日。
Yさんの家で、テレビを見ていると、首にフッと冷たい感触があった。
見ると、ネックレスがかけられていた。
「プレゼント。帰りにお店通りかかったら、これYに似合いそうだなって」
彼が満面な横顔で言った。
戦慄がYさんを襲った。
またもTくんからもらったネックレスだった。
どうして・・・どうして・・・。
Tくんの呪縛はまだ終わってなかった。
「・・・あなた・・・Tくんなの?」
Yさんは、彼に恐る恐る問いかけてみた。声が震えた。
「は?・・・Tって誰だよ。何言ってんの」
彼は、知らない男の名前がYさんの口から出てきたことで怒り出し、Yさんがいくら言い繕っても、彼の怒りは収まらず、最後は飛び出すように彼がYさんの家を出ていって、2人の関係は終わった。

それ以来、Yさんは何年経っても独身を貫いている。
年もとり、周りの幸せそうな人たちを見るたび、孤独でむなしい自分が哀れに思えるけど、もうあの時のような恐ろしい目にあいたくなかった。
Yさんには、今でも周りの男性が全員、Tくんに思えて仕方ないのだという。

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