ハワイの怖い話 ナイト・マーチャー

ハワイで有名な怪談の一つに「ナイト・マーチャー(夜の行進者)」という話がある。
これはハワイでは誰もが知っているような有名な怪談で、「いにしえの王族や戦士達が夜中に行進し、それを見たものは殺されてしまう」という恐ろしい話だ。
ナイト・マーチャーが現れやすいのは、陰暦の毎月27日夜。ハワイの大神カネにちなんだ神聖な日にあたる。このカネの夜、何百年も前に死んだハワイの酋長達がそれぞれ戦士やカフナ(祈祷師)を引き連れて、各地を行進すると、古来信じられてきたそうだ。
行進は、おどろおどろしい太鼓の響きや法螺貝の音、ハワイ語のチャント(詠唱)、松明が掲げられ、賑やかにおこなわれる。
このナイト・マーチャーを目撃してしまうと殺されてしまい、行進に加えられてしまう。
ナイト・マーチャーに遭遇してしまった場合、助かる方法は2つ。
一つは、行列の中に先祖が含まれている例外のケースだ。
その場合、その先祖が進み出て「あれは私の子孫です」と、酋長に命乞いをしてくれるのだという。
もう一つは、服を全て脱ぎ去って、裸でナイト・マーチャーが通り過ぎるまで、道端で平伏すことだという。
ハワイの道端で外傷もなく、心臓発作などの死因で片付けられる変死者が出た場合、地元住民はナイト・マーチャーの犠牲者ではないかと噂するそうだ。
ナイト・マーチャーが出没するといわれている場所は、ハワイ中に点在していて、中でも有名なのはヌウアヌパリ展望台だ。
ホノルルから車で30分程度。
切り立った断崖絶壁の展望台からカネオヘ湾やカイルアの街並みを見渡すことができる観光スポットなのだが、ナイト・マーチャーがあらわれる心霊スポットとしても有名で、夜になると地元の若者たちが肝試しに訪れる。

日本人観光客のHさん夫妻は、ヌウアヌパリ展望台で怖い体験をした1人だ。

Hさん夫妻は、2人ともサーフィンをはじめマリンスポーツが好きで、なんどもハワイを訪れていた。ビーチでほとんどの時間を使ってしまうが、毎回の旅行で1日は内陸の観光をすることにしていた。
今回はヌウアヌパリ展望台に行くことにした。
ワイキキでレンタカーを借りて、展望台に到着したのはお昼を過ぎた頃だった。
その日は、観光客がぽつぽつといるくらいで、割と空いていた。
ヌウアヌパリ展望台は、偏西風がぶつかる関係で常に強風がふいている。
2人は、吹き荒ぶ風に荷物や帽子が持っていかれないよう押さえながら展望台まで歩いていった。
絶景を堪能して、さあ車に帰ろうと振り返ると、さっきまでパラパラといた観光客の姿がない。
自分たちだけだった。
風が止み、嵐の前のような不気味な静けさに辺りは包まれていた。
その時、どこからともなく、声が聞こえた。
Hさん夫妻は2人とも英語が堪能だったが、聞き取れない。
どうやらハワイ語のようだ。
はじめは1人2人だった声の数が、次第に増えていく。
声は聞こえるのに、なぜか姿は見えない。
やがて、人の声だけでなく、ド・・・ド・・・ド・・・と太鼓のような音が聞こえ出した。
遠くでやっている祭りの音が風に乗ってここまで届いているんだろうか。
そう自分たちに言い聞かせるが、冷や汗が止まらない。
夫妻は早足で車に向かった。
その間も、人の声と太鼓の音の数はどんどん増えてきて、しかも音が大きくなった。
明らかに近づいてきている。
車に乗り込む直前には、夫妻の車を囲むように音は激しく鳴っていた。
急いでエンジンをかけ、車を発進させる。
旦那さんがバックミラーでちらちら後方を何度も確認する。
奥さんは怖くて後ろを見れなかった。
「なにか見えるの・・・?」
「い・・いや・・なにも」

その数週間後。
夫妻を悲劇が襲った。
旦那さんが、海で溺れて亡くなってしまったのだ。
あれほど泳ぎに自信を持っていた人があまりに唐突に。
しかも、死因は溺死ではなく、心臓発作だった。

数年後、奥さんは、思い出の地ハワイに戻り、ナイト・マーチャーの伝説を初めて知った。
あの日、旦那さんは、本当はバックミラー越しに何かを見てしまっていて、ナイト・マーチャーに連れていかれてしまったのかもしれない。
奥さんはそう考えているとのだという。

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