旧吹上トンネルの怖い話

 

吹上トンネルは、東京都青梅市にあるトンネル群で、都内の最恐心霊スポットの一つといわれている。
多くの幽霊目撃談があるのは、旧吹上トンネルと旧旧吹上トンネルだ。
旧吹上トンネルは自転車と歩行者のみが通れる遊歩道になっていて、旧旧吹上トンネルは厚い鉄板で塞がれていて今は誰も通れない。
吹上トンネルで噂される怪異は様々で、白い着物を着た女の幽霊が出るというものや、子供のすすり泣く声が聞こえるという話や、行って戻ってくると車に白い手形がついているという話など、色々なパターンがある。

その中で、私の友人のMが旧吹上トンネルで記録した怪異を今日は紹介したい。

Mが息を切らせながら僕のアパートを訪れたのは去年の夏のことだった。
僕たちはともに八王子の大学に通う学生で、2ヶ月もの夏休みをちょうど持て余しているところだった。
「すごい映像が撮れたぞ」
Mは靴を脱ぎ散らかして上がり込んでくると、挨拶もせずにハンディカメラを僕に見せつけてきた。
わけがわからず事情をたずねると、先日、旧吹上トンネルに一人で肝試しに行ってカメラで撮影をしてきたのだという。
一人でそんないわくつきのスポットに行ってしまうあたりがMらしいなと思ったが、そこでとんでもない映像が記録されたのだという。
「まあ見てみてくれ。感想はそれから聞こう」
そう言って、Mは手慣れた手つきで僕の部屋のテレビにHDMIケーブルをさして、カメラとテレビを接続した。

ハンディカメラの再生ボタンを押すと、テレビ画面に映像が流れ出した。
テレビの心霊特番とかで見かける、緑がかった暗視カメラの映像でトンネルの内部が映し出された。
しばらく固定で映していたと思ったら、画面が前進しだした。
Mがカメラをもって歩いているらしい。
声などは入っていない。
天井から滴る水滴音とサーという機械音が混ざっているだけだった。
カメラはゆっくりとトンネルの奥へ進んでいく。
特に何も起きない。
やがて出口が見えてきた。
と、ふいに出口に人影が見えた気がした。
ほぼ同時に「うわっ」という声が上がり、カメラの視点がグルリと回転して、地面に落ちた。
そこで動画は終わっていた。

人影らしいものは映っていたが、これが怪異だというのか。
出口に通行人が立っていただけではないのか。
そう目で訴えてみると、Mはわかってますよといわんばかりに再び動画を再生し、人影が現れたところで停止する。
「よく見てみろよ」
と言ってMは人影を指差す。
目を凝らすと、それはM自身であることがわかった。
Mがここに立っているということは、、、
「ドッペルゲンガーか?」
僕は素直に思ったことを尋ねた。
「違う違う。俺はさ、固定カメラでトンネルの奥から入り口に向けて撮影してたんだよ。何時間も撮ってたら何かしら怪現象が起きるかと思ってさ。つまり、この動画を撮っているのはオレじゃないんだ。オレじゃない何かが固定しておいたカメラを持って歩いてきてるんだ。入ってる声はオレが異変に気づいて驚いた声。駆けつけてみたらカメラが録画中で地面に落ちていたんだ」
Mが説明した意味を悟り、僕は思わずゾッとした。
幽霊がカメラを持って歩いたということなのか。
けど、本当にMが一人で撮影しにいった保証はない。もしかして僕を引っ掛けようとしているだけなのかもしれない。
そんなことを考えて、ふと、Mの方を見てみたら驚くべきことが起きた。
ほんの1秒前までいたはずのMの姿がなかったのだ。
目を疑った。
トイレに立ったのか。
いや、そんなはずはない。
気配も立ち上がる音もしなかった。
忽然と消えてしまった。
あの有名なマリーセレステ号事件のように、ついさっきまでそこに人がいた気配だけを残し、忽然と姿を消してしまった。

僕は自分の正気を確認するかのように映像を再生してみた。
カメラにはMが持ってきた動画データがきちんと録画されていた。
ただ、最後のMの驚いた「うわっ」という声がさっきまでと違い、「うわあああ」という叫び声に変わったような気がした。
僕は慌ててケーブルをテレビから引き抜き、カメラを部屋の隅においやった。

Mは本当にそのまま行方不明になってしまった。
Mの失踪に旧吹上トンネルが関わっているかは定かではない。
ただ、旧吹上トンネルでMの身に何かがあったのではないかという疑念はいまでも消えていない。

ちなみに、Mは録画データをYouTubeにアップしたと言っていた。
もし、ここで記述した内容と似た動画を見かけた場合は、視聴するのはオススメしない。
どんな障りがあったとしても僕は保障できない。

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