【怖い話】夜釣り

 

これは父から聞いた怖い話。

父は若い頃、よく近所の渓流に夜釣りに出かけていたそうだ。
父にはお気に入りの場所があって、高さ3mほどの小さな橋の上から釣糸を垂らしていたという。
申し訳程度だけど街灯があったし、田舎なのでほとんど誰も通らない。
魚はあまり釣れなかったけど、蒸し暑い夜、涼むのに最適だった。

ある日のこと、父はいつものように夜釣りに出掛けた。
その日の橋の上は心なしか気温が低かった。しばらく、釣糸を垂らしてボーッとしていた。
ふと、視界のすみに何かがよぎった。
欄干にロープが巻き付けられていた。
ロープの先は渓流に向かって垂れていた。
父の頭をよぎったのは、首吊りだった。
ためしに、ロープを引っ張ってみた。
重い。やはり・・・。
見たくなかったけど、確かめないわけにはいかない。
欄干から身を乗りだしロープの先をのぞいた・・・。
やはりぶら下がっていた。
高齢の男性のようだった。
家に帰って通報しなければ。
そう思って首を引っ込めようとした時、驚くべきことが起きた。
死んでいると思った男性の首がグルリと回転し、目があった。
それから男性は首にロープを巻き付けたまま、腕の力だけで、ロープをよじり上りはじめた。
よく見ると、首は不自然に折れ曲がっている。
なのに、男性は、ずんずんロープを上がり、欄干の父に向かってきた。
父は釣り道具を置いて、一目散に逃げ出した。

それ以来、一度も夜釣りにはいっていないという。
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