【怖い話】墓地が見えるホテル

 

これは先日、出張で泊まったビジネスホテルで体験した怖い話です。

そのホテルは駅から歩いて5分ほどの、繁華街の外れにありました。
比較的できたばかりなのかモダンな入り口はとてもキレイで、部屋も清潔感があって、売りである高級ベッドはフカフカで家の安物とは比べものにならない寝心地でした。
ところが換気しようと窓を開けて、「あっ」と思いました。
ホテルのすぐ裏手は寺院で、部屋のすぐ下から一面に墓地が広がっていたのです。
よく調べなかった私が悪いのですが、
駅から近く周辺のホテルの価格より安かったので、飛びつくように予約してしまったことを少し後悔しました。
部屋は決して悪くないので窓を閉めて、気にしないようにしようと思いました。

明日のクライアントとの打ち合わせにそなえてしばらく部屋で仕事をして、気がつくと夜の12時を回っていました。
明日も早いのでそろそろ寝ようと思い、ベッドに入りました。
電気を消そうとした瞬間、目の前が墓地だということを思い出し、消すのをためらいましたが、明るいとなかなか眠れない体質なので、勇気を出して消灯しました。
ベッド脇の薄暗い間接照明だけにしてシーツを頭から被りました。

どれくらい時間が経ったでしょう。
目が覚めました。
時計を確認すると午前2時を回ったところでした。
また、嫌な時間に目が覚めたな・・・。
喉がカラカラだったので、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、一口含みました。
すると、コンコンと微かな音が聞こえました。
窓の外からです。
コンコン・・・コンコン・・
誰かが窓を軽く叩いているような音でした。
背筋に寒気が走りました。
この時刻に、窓の外は墓地。
想像することは1つしかありません。
コンコン・・・コンコン・・・
音はやみませんでした。
いや、きっと何かが窓の金属に当たっているとか、科学的に説明できる現象に違いない。
頭をフル回転させて原因を推測しますが、何も正解と思えるような考えは浮かびませんでした。
けど、カーテンを開けて確認するような勇気はありませんでした。
まだ、音は鳴っていましたが、ベッドに戻り、耳を塞ぎ、目を瞑りました。
当然そんな状態で眠れるわけもありません。
私の感覚では30分ほどそうしてから耳に当てた手を離しました。
音はやんでました。
ホッと大きな息を吐きました。
これでようやく眠れる、そう思った瞬間、どこかの部屋から男性の大きな悲鳴が聞こえ、ビクッとしました。
ああ、もしかして我慢できなくて窓を開けてしまいなにかを見てしまったのかもしれないなと思いました。
窓を開けなくてよかった。
そう思いながら、ベッドに再び横になりました。
明日の仕事のシュミレーションをしながら、まどろんでいると、耳元で声が聞こえました。
「・・・ドウシテ開ケテクレナイノ」
女性とも男性ともいえない奇妙な声で、はっきりそう聞き取れたわけではなく、頭で意味を考えた結果、そう言っているのではないかと僕の脳は理解しました。
顎が外れた人が話しているような、抜けてボソボソとした声でした。
・・・部屋に入ってきてしまった。
身体中から冷や汗がどっと吹き出るのがわかりました。
一ミリも動かないようにして、目も開けませんでした。いえ、怖くて開けられませんでした。
耳元で、ソイツの息づかいが聞こえました。
ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・
「・・・ドウシテ開ケテクレナイノ」
ソイツは繰り返しそう言っています。
けど、決して反応したらダメだと本能的に感じていました。
ただ、ひたすら歯を食いしばり、ソイツが去るのを待ちました。

・・・気がついたら朝になっていました。
いつの間にか眠っていました。(気を失っていたというのが正確かもしれません)
時計を確認すると8時を回っていました。
僕は急いでシャワーを浴びながら、昨夜の出来事を振り返りました。
僕に取ってはじめての心霊体験でした。
昨夜の恐怖がまだ残っていて、思い出すだけで身体が震えました。

シャワーから出て髪を乾かしながら、着替えを出そうと、キャリーバッグを開けました。
その瞬間、
「・・・ヤット開ケテクレタ」という声がバッグの中からしました。
見たらいけない見たらいけない、心ではそう思いながら僕はキャリーバッグの中に目を向けていました。
その後、僕の身に起きたことは、詳細を書くのはやめようと思います。
ただ、以来、宿泊先の周辺に墓地がないか必ずチェックするようにしています。

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