【怖い話】秘密の合図

2018/03/29

 

小さい頃に秘密基地を作ったという人は多いのではないだろうか。
僕の場合は、近所の山の中にあった小屋がそうだった。
小学校4年生の時、クラスメイトのAくんとBくんと遊んでいて、打ち捨てられた山小屋を発見した。
蜘蛛の巣がそこら中にはっていて、ゲームの中のダンジョンみたいだった。
昔は誰か住んでいたのかもしれない。
木でできたテーブルや家具があった。
ほとんどが壊れてしまっていて使えなかったけど、僕たちは秘密の場所を見つけた喜びに興奮した。

それからというもの、放課後はほとんど秘密基地で過ごした。
シートをひいて漫画や食べ物を持ち込んだら、かなり快適な空間になった。
僕たちは、この小屋を自分達だけの秘密にしておきたかった。
学校の同級生であれ大人であれ、誰も入れたくなかった。
そこで、ホームセンターで鍵を買ってドアにとりつけることにした。
一番はじめに小屋に行く仲間が鍵をもっていく。
後から来た仲間は秘密の合図で中から鍵を開けてもらうという仕組みだ。

合図はシンプルだった。
小屋のドアを叩くとき、
トントン・・・トン・・・トントントンと、2、1、3の回数でノックするというものだ。

その日、僕とAくんは先に秘密基地にいって、漫画を読んだり、トランプをしたりしていた。Bくんは学校の委員会が終わり次第、合流することになっていた。

しばらくして、ドアをノックする音がした。
Bくんだ。
僕は立ち上がって鍵を開けにいこうとした。
すると、Aくんが僕の腕をつかんで止めた。
「合図が違う」
確かに、ノックが、トントントンと3回連続だった。
「おーい、開けてよ!」
Bくんの声が表から聞こえた。

トントントン。

「やっぱりBくんだよ」
「でも合図が違うのは変だ。合図を作ろうって言い出したのはBなのに」
「でも・・・」

トントントン。

「誰かと一緒だから開けるなってことかもしれない」とAくんはいった。
たしかに、それはあるかもしれないと思った。

トントントントン。

Bくんは、間違った合図を続けた。

トントントントン。
「開けてよ一!」

僕とAくんは、気にしないようにしようとしたけど、ノックは鳴りやまなかった。

トントントントン。
「なんで開けてくれないの?」

引き返す気配がない。
やはり、表にいるのはBくんだけで、合図のことをすっかり忘れてしまったのではないか。
そう思って、何度開けにいこうと思ったかわからない。
けど、踏ん切りがつかなかった。
何かがおかしいという感覚があった。

「開けろよ!!」

今までBくんから聞いたことがない乱暴な声がした。

ドンドン!

ドアをなぐりつける音。
・・・それ以降、ノックは止んだ。
気配は去った。

僕とAくんは、鍵を開けて表を覗いた。
Bくんも他の誰もいなかった。

それから、僕とAくんは、すぐ秘密基地を後にしてBくんの家に向かった。
Bくんの家の前で、ちょうど出掛けようとしていたBくんのお母さんに会った。
お母さんから、Bくんが学校で急に高熱を出して、先生に付き添われて病院に行っていると聞いて、僕たちはゾッとした。
小屋のドアをノックしていたのは、Bくんではなかったのだ。
どうりで秘密の合図を知らなかったはずだ。
いったいアレはなんだったのだろうか。
「・・・開けなくてよかったね」
「もう、あの小屋は使わない方がいいかもな」
「そうだね」
僕とAくんは、そんなことを話しながら、分かれた。

自宅についた時には日がくれていた。
お母さんはまだパートから帰ってきてなかった。
ランドセルをリビングに放って、冷蔵庫の麦茶を飲んだ。
クタクタに疲れていた。
ソファに横になって、寝てしまいたかった。

その時、玄関をノックする音がした。
インターフォンを押せばいいのに、たまに使わない人がいるのだ。
町内の回覧板か何かだろう。
そう思って玄関に向かうと、僕はふと気がついた。

ノックの音。
トントン・・・トン・・・トントントントン。
2、1、3。
僕たちの秘密の合図だった。
なぜ?頭に疑問符がいっぱい浮かんだ。

トントン・・・トン・・・トントントントン。
偶然なんかじゃない。
Bくんになりすまして小屋に入ろうとしていた何かが、僕の家までついてきてしまったのではないか。
そんな気がした。
玄関の刷りガラスの向こうに黒い人影があった。

僕は慌ててAくんの家に電話した。
数回の呼び出し音でつながった。
「もしもし!Aくん?」
「なに?」
Aくんの声だ。
けど耳を疑った。
「なになに・・・なに・・・なになになに?」
・・・2、1、3の『なに』。
「ドア、開けてよ」
覚えているのはそこまでだ。

気がつくと、ソファの上で横になっていた。

・・・後から聞くと、Aくんの家にも、そいつは来たらしい。
山に住む妖か何かだったのだろうか。
それは今もってわからない。

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