【閲覧注意】クリスマスの怪人 #249

 

僕が住むT町では、奇妙な事件が続いている。
毎年、クリスマスになると、子供が行方不明になる。
毎年一人。
まだ、誰も見つかっていない。
いつからか謎の誘拐犯は『クリスマスの怪人』と呼ばれ、恐れられるようになった。
さらわれた子は、殺されるか、海外に売り飛ばされていると噂されている。
怪人はきっと今年もあらわれる・・・。
大人たちはクリスマスイベントをいくつも催し、子供たちが一人にならないようにした。
今年こそは我が子かもしれないのだ。

僕は例年通り、一人ぼっちのクリスマスとなる予定だった。
両親とも仕事で家を空けている。
プレゼントもないだろう。
毎年のことだから、もう慣れた。
けど、今年は違った。
5年のクラスメイトのCくんの家で開かれるクリスマスパーティーに誘われた。
Cくんのお父さんはいくつもの会社を経営していて、県の議員もつとめている。
毎年Cくんが住む大豪邸で、学校の友達数十人が招かれ盛大なクリスマスパーティーが開かれている。
けど、今まで一度も僕は呼ばれたことはなかった。
クラスで浮いていて、まして家がお金持ちでもない僕を呼ぶ意味など、Cくんにあるはずないのは、僕にだってわかる話だ。
それがなぜ今年は呼ばれたのか?
もやもやとした疑問はあったけど、招待されたことにワクワクしてしまっている自分がいた。
一人ぼっちのクリスマスよりは、空気みたいな存在だとしても、誰かと過ごしていた方がよかった。

イブの夜。
Cくんの家に向かうと、遊園地のようなイルミネーションに出迎えられた。
電飾が何重にも巻き付けられたツリーの下には、サンタの像が飾られていて、LEDで赤く輝いていた。
夢のようだった。
ボーッと魅入っていると、Cくんがやってきた。
「入れよ」
自分で招待しておきながら、冷たい言い方だった。

案内されたのは、パーティー会場のような広さのリビングだった。
十人以上が座れそうなソファに、暖炉までついている。
外国の映画の中でしか見かけたことがない豪華な部屋だった。
すでに、何人かのクラスメイトの姿があった。
彼らは僕に一瞬、視線を投げた後、すぐに自分達の会話に戻った。
ここまで案内してくれたCくんも、いつの間にかいなくなっている。
僕は居場所なく部屋の隅に立つしかなかった。
続々とクラスメイトや同級生がやってきたけど、誰も僕に話しかけようとはしない。
勇気を出してこちらから話しかけても、そっけない返事がかえってくるだけだった。
料理や飲み物が次々と運ばれてきて、みんなが盛り上がれば盛り上がるほど、僕の気持ちは沈んでいった。
僕はどうにもその場所にいたくなくて、お手洗いにたった。
廊下を歩いていると、半開きの扉の奥から声が聞こえた。
一人はCくんで、もう一人はおそらくCくんのお母さん。
「どうして××を招待しなくちゃいけなかったの?」
××は僕の名前だ。
思わぬところで自分の名前が出て、僕は心臓がはねあがった。
Cくんの言い方だと、僕を招待させたのはCくんのお母さんのようだ。
「安全にみんなが楽しむためよ。毎年行方不明になるのは、ああいう、友達がいなくて寂しそうな子なの。だから、あの子がいれば、万が一、おかしな人が現れても他のみんなは安全ってことよ」
「怪人があいつを狙うから?」
「そういうことよ」
「あいつは、いけにえってことか」
「こら、そんなこと言ったらダメ。大事なお客様なんだから」
そう言ってCくんのお母さんは忍び笑いを漏らした。
僕は、どう反応すればいいかわからなかった。
疑問の答えはわかったし、はじめからおかしいとは思ってたけど、無性に泣きたくなった。
クリスマスパーティーの装飾を全部メチャクチャに壊してしまいたい気分だ。
僕は『クリスマスの怪人』に祈った。
どうか今年はCくんをさらってください!
けど、願いが届くわけないのはわかっていた。
Cくんのお母さんが言う通り、怪人は孤独な子供しかさらわない。

僕は誰にも声をかけず帰ることにした。
その時だった・・・。
突然、Cくんのお母さんの悲鳴が上がった。
僕は急いで、さっきの部屋に引き返した。
ドアを開けると、恐ろしい光景が目に飛び込んできた。
床に倒れているCくんのお母さん。
床は血まみれだった。
Cくんのお母さんは、ピクリとも動かない。
そして・・・。
窓際に、サンタクロースが立っていた。
大きな白い袋を背中に抱えている。
袋の中で何かが激しく動いていた。
「はなせ!助けて!」
Cくんだ・・・。
本当に現れたんだ。
『クリスマスの怪人』が。
僕は言葉を失って立ち尽くすしかなかった。
怪人が振り返った。
・・・目が合った。
怪人は僕に笑いかけると、窓からヒラリと出ていった。

・・・警察の人は、何度も僕に怪人の見た目や人となりをたずねた。
それもそうだ。
目撃者は僕しかいない。
しかも、今まで一度もその姿を目撃されていない怪人が、
ついに姿を現したのだ。
警察の人は僕の証言を頼りに似顔絵を描いた。
・・・でも、その似顔絵から、
警察の人が『クリスマスの怪人』を見つけることはないだろう。
なぜなら、僕が嘘をついたからだ。

T町の人々は、怪人がついに姿を現れたことに恐れを感じ、また疑問を持った。
なぜ今年に限って、資産家の息子を狙うような目立った行動を怪人が取ったのか。
その答えを僕は知っている。
怪人も僕と同じように怒ったのだ。
怪人のいけにえとして寂しい子どもをクリスマスパーティーにあえて招いたCくん親子のやり方に。
怪人もまた、子を持つ親なのだ・・・。

25日。目を覚ますと、枕の脇にプレゼントが置いてあった。
生まれて初めてのことだった。
包みを開けると、腕時計が入っていた。
見覚えがあった。
Cくんが自慢していた腕時計だった。
僕は、腕に時計をはめて、「ありがとう」を言いに、
両親が待つダイニングに向かった。

-クリスマスの怖い話, 怖い話