【怖い話】4:44の怪 #248

 

まただ・・・。
もう何度目だろう。
目覚めて時計を見ると4:44。
このところ毎日だ。
目覚ましなどかけていない。
身体が勝手に目覚める。
まだ深夜の名残りがあるお夜明け前。
耳が痛くなる静寂だけが暗い部屋を満たしていた。

体内時計がその時刻に慣れてしまっているだけだとはじめは思った。けど、そう思ってあえて深夜に眠りについても4:44に目が覚める。
不可解としか言いようがなかった。

ビデオカメラで寝ている自分を撮影してみることにした。
これで、おかしなものでも映っていたら・・・。
そう思うと怖かったけど、これ以上、モヤモヤするのは嫌だった。

翌朝。
録画したデータを確認した。
3:20の映像。
寝返りを打つ自分が映っているだけだった。
問題の時刻まで早回しにする。
4:01・・・4:23・・・異常は見当たらない。
4:30くらいから通常のスピードで再生したけど、おかしなことは起きないまま、4:44になると自分が起きただけだった。
ホッと安心したようながっかりしたような。
結局何も解明されぬままモヤモヤだけが残った。

後日、その話を友人にすると、映像を見てみたいと言われた。彼は映像編集の仕事をしている。より詳しく見てもらえることになった。
その友人から興奮した様子で電話がかかってきたのは3日後のことだった。
「とにかく見てくれ!」
そう言って友人は専用の編集ソフトに取り込んだ映像をコマ送りで再生していった。
一コマは60分の1秒。
パラパラ漫画のように、僕が眠っている映像が進んでいく。
4:44に変わった瞬間で友人は映像を
止めた。
「これ見てくれ」
友人が指差した場所を目で追って言葉を失った。
半透明の両手が僕の首を絞めていた。
「何度も繰り返しみたけど、他には一切映ってない。4:44に変わった瞬間のこの1コマだけに映り込んでる」
わずか60分の1秒にだけ映り込んだ手。
恐怖と気持ち悪さで全身に悪寒が走った。

しばらく泊まってもいいと友人は言ってくれたけど、僕は自宅に帰ることにした。
すぐにでも部屋を片付けて引き払うつもりだったのだ。
家賃を余分に1ヶ月分払っても構わないといったら、
不動産業者が即日退去を認めてくれた。
幸い荷物は少ないしがんばれば1日で準備は終わる。

深夜2時頃に引っ越し作業を終えた。
ひとまずの避難として隣県の実家を頼ることにした。
そこからなら会社に通えないこともない。
朝になれば業者が荷物を取りにくる。
この家で過ごす最後の夜。
時間が刻一刻と過ぎていく。
4:16・・・。
今まで大きなことがなかったのだから大丈夫だと思いながら、なぜか安心できない・・・。
4:29・・・。
今日こそは取り返しのないことが起きるのではないか。
嫌な汗が背中を流れた。
4:40・・・。
張りつめた神経が限界を越えた。
僕は4:44をすぐ近くのコンビニで過ごそうと決めた。
5:00くらいに戻ろうと思った。
マフラーを首に巻き、サンダルを突っ掛けた。
部屋を出ようとした瞬間、すごい力でマフラーが後ろに引っ張られた。
首にマフラーが強く巻きつき息が出来なくなった。
あの手だ!僕を逃がさないつもりなんだ!
僕はマフラーを取ろうともがいた。
あせるほどなかなか外れない。
時計は4:43だった。まもなく4分になろうとしていた。
・・・ようやく外れた!
振り向くと、マフラーがトイレのドアの隙間に引きずり込まれるように消えたのが一瞬見えた。
僕はサンダルが脱げたのも気にせず裸足のまま外に飛び出した。
そして、引っ越し業者から連絡がくるまで、アパートの駐輪場でガタガタと震えていた。

業者の人と部屋に入ると何事もなかったように静かだった。ただし、最後の荷物の搬出が済んでもマフラーだけは出てこなかった。

後は不動産業者に引き渡すだけ。
ゆっくりと部屋を見て回る業者の人にイライラしながら、チェックが終わるのを待った。
「はい、結構です」
明け渡しの書類にサインして鍵を返す。
・・・やっと終わった。
挨拶して引き上げようとした時、業者の人が何かに気がついて言った。
「あ、マフラーお忘れですよ」
業者の人の視線の先を追うと、さっきまでなかったはずのマフラーが床に転がっていた。
僕は逃げるように部屋を飛び出した・・・。
実家に戻ってからは4:44に目覚めることはなくなった。

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