ひとり暮らしの怖い話 #129

2017/10/25

 

大学2年の時、念願だったひとり暮らしを始めた。築30年以上たったボロアパートだったけど、初めてできた自分の城だ。僕は大満足だった。
引っ越ししてすぐに、高校の友達Aが訪ねてきた。実家暮らしのAはしきりにうらやましそうにしていた。
「いいなー。彼女とか連れ込み放題じゃん」
「いればな」
「早く作れよ」
「授業とバイトで忙しくて、出会いがないよ」
「もったいねえな。何のための一人暮らしだよ。家で一人でなにやってんの?」
「レポート書いたり、ネット見たり、漫画読んだり、かな」
「さみしすぎんだろ、それ」
「まあね。かなり独り言が増えたな」
「・・・あ、お前、寂しいからって、サシコさん呼ぶなよ」
「サシコさん?」
「知らねえの?都市伝説。寂しくて仕方ない時に、『サシコさん、話し相手になってください』っていうと、返事があるってやつ」
「初めて聞いた」
「ヤバイらしいから、寂しくても呼ぶなよ。ま、あれだ。とにかく早く彼女作れ」
そう言って、Aは帰っていった。

初めの一ヶ月は一人暮らしの寂しさに耐えられた。けど、二ヶ月目に入ると、急に人恋しさが募ってきた。独り言の量もどんどん増えていた。テレビに向かって言葉を投げかけるのが当たり前になりつつあった。
レポートやバイトに追われて疲労がたまっていたのもあると思う。
ある日、僕は無意識に「ねえ、サシコさん」と呼び掛けていた。言って、ハッと我に返った。僕は何をやってるんだろう・・・。
耳をすませてみた。返事はない。それもそうだ。サシコさんなんて誰かが創作した作り話なのだから。
どうやら気づかないうちにかなり精神状態が悪くなっていたらしい。それに、気づくいいきっかけになった。
僕はAに電話して、「遊びにこないか?」と誘った。
30分後、表からAの単車の音が聞こえた。
カーテンを開けると、単車を停めたAがこちらに気づき手を振った。
Aは玄関の方に回り込んだ。
勢いよく玄関のドアが開いた。
「ついに、彼女できたのか?」
靴を脱ぎながらAは言った。
「できるわけないだろ。できてたら報告してるよ」
Aは怪訝そうな顔になった。
「じゃあ、さっきお前の隣にいた女の子誰だよ?」
「・・・女の子?何言ってんの?」
「いや、さっきお前の横に仲良さそうに立ってたじゃん」
「いや、誰もいないよ」
二人で顔を見合わせた。
「お前、まさか、サシコさん呼んだんじゃないよな?」
「・・・呼んだらどうなるんだ?」
「サシコさんは、ものすごく嫉妬深いから、呼んだ人間が友達や恋人と会うのを絶対許さない。死ぬまで」
その瞬間、Aの首がグルンとあらぬ方向に回ってボキと音がした。首の骨が折れる音だ。Aは白目を剥き鼻から血を流して倒れた。
・・・フフ、アハハ。
どこからか、女の子の笑い声が聞こえた。

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