第128話「サブリミナル効果の怖い話」

行きつけのバーで大学教授をしているという40代の男性と知り合った。
独身貴族同士、お互いの年齢も近く、大学で教鞭を取っているだけあって話上手なものだから、話が弾んだ。こういう人と、つきあえたら楽しいかもしれないと思った。夜も更け、これからどうしようかと思っていたら、彼が話題をかえた。

「サブリミナル効果はご存知ですか?」
「たしか、映像の中に一瞬だけまったく別の画像を差し込むと、目で見えてなくても、脳にその画像が刷り込まれるってヤツですよね。本当に効果あるんですか?」
「気になるでしょう?某飲料メーカーが自社商品の画像を映画の中の一コマに差し込んだとか、某有名海外メーカーのPC端末の起動画面にはサブリミナル効果が仕掛けられているとか。この手の話は上げればキリがない。
けど、誰もどれくらい効果があるのか、実際のところはわかってない」
「そうですね」
「だから、僕は実験をしたんですよ。ちょうど身近に被験者が大勢いるのでね」
「まさか・・・」
「そうです。大学の教え子たちです。僕は自分の講義で流す映像の1コマに、ある画像を差し込んだんです。サブリミナル効果が実在するのか計測するために」
「どんな画像を差し込んだんですか?」
「裸の女性が殺されてる画像です」
「・・・え?」
「繰り返し繰り返し授業のたびに見せたんですよ」
話がどこへ向かうのか恐くなってきた。
「・・・それで、どうなったんですか?」
「それがね、どうもなりませんでした・・・」
彼は苦笑して言った。
「やっぱりサブリミナル効果なんてないんですね」
「いえ、その時は確かに僕も思いました。でも、最近、当時の教え子が立て続けに逮捕されてるんですよ」
「・・・嘘でしょう?」
「本当なんです。殺人、強姦、連れ去り。サブリミナル効果の影響かはわかりません・・・けど、見過ごすには多すぎる」
「・・・」
「実はね、僕もずーっと見てたんですよ。その映像・・・」
彼はそう言って、ニヤリと笑った。その目は爛々と光っていた。

-ショートホラー