第58話「禁じられた遊び」

これは、僕が小学校3年生の時に体験した怖い話だ。

父の仕事の都合で僕たち一家は引っ越すことになり、今まで住んでいた都内のマンションから一番近いコンビニまで車で20分もかかるような田舎町に移り住むことになった。
引っ越したのはちょうど春休みの期間で、友達もいないから朝から晩まで部屋にこもって、携帯ゲームばかりやっていた。
ある日、見かねた母が「外に出て遊びなさい」と言って、無理やり僕を外に遊びに行かせた。
だけど、見知らぬ土地で知り合いもいないから近所を歩くだけでも心細かった。
それまで都会で暮らしていたものだから、見渡すかぎり山や緑という景色を見ても、雄大さより不安を感じる方が強かった。

やることもなくブラブラ歩いていたら、雑木林のふもとから上へのびる石段を見つけた。
見上げると、鳥居と狛犬が階段の上にあった。
どうも神社らしい。

神社の方から、子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
声からしておそらく僕と同年代の子だと思った。
僕は石段を上って、神社に行ってみた。
遊びに混ぜてもらって、あわよくば仲良くなれたらいいなと期待していた。

石段を上りきると、鳥居の向こうに本殿が見えた。
本殿はそこかしこが壊れていて落ち葉も片付けられていなかった。
もう祀られなくなった神社のようだった。
さっきの子供たちはどこへ行ったのだろう。
見回すと、女の子を男の子が追って、本殿の陰の方に走っていくのが見えた。
鬼ごっこをしているらしい。
僕は二人の後を追った。

本殿を回り込むと、二人の姿はなくなっていた。
草藪の奥の方に物置小屋のようなものが見えた。
そこから笑い声が聞こえてきた。
あの小屋に二人は入っていったらしい。
僕は、藪を踏み分けながら小屋に行った。

小屋の中は日が射さないので暗かった。
しかし、いくら目をこらしても二人が見当たらない。
それほど広くもないし隠れる場所もないのにだ。
おかしいな、と思った時だった。
ガラガラガラと後ろから音がした。
振り返るとさっきの子供たちが物置小屋の扉をしめようとしていた。
逆光で影になって顔は見えない。
きゃはははははは・・・。
二人は楽しそうに笑いながら扉をしめていく。
「ちょっとやめてよ!」
言った途端、扉は完全に閉まり小屋の中は完全な暗闇になった。
僕は焦って扉を開けようとしたが、まったく開かない。
つっかえ棒でもされたみたいだった。
閉じ込められた・・・。
「出してよ!」
僕は怖くて仕方なく扉を叩いて叫んだ。
「お願い出してよ!」
きゃははは、きゃははは・・・。
小屋の外で男の子と女の子が笑う声が聞こえてくる。
いくら頼んでも二人は笑うだけで開けてくれない。
僕は半べそになりながら「開けて!開けて!」と叫び続けた。
その時。
きゃはははは・・・。
笑い声が小屋の中から聞こえた気がした。
二人は外にいるはずなのに・・・。
ありえない。小屋の中の暗闇がそう錯覚させたのだろうか。
いや、勘違いじゃない。
小屋の中に、たしかに誰かの気配があった。
暗闇の中から誰かが僕を見ている視線を感じた。
身体中を恐怖が駆け上がった 僕は言葉にならない絶叫を上げた。

その時、ガラガラガラと扉が開いた。
扉の前には、知らないおばあさんが立っていた。
おばあさんは僕の叫び声を聞いて様子を見にきてくれたらしい。
小屋に鍵はかかっていなかった。
「ぼうや。二度とここで遊んだらいけないよ」
真剣な顔つきで言った、おばあさんの顔が今でも忘れられない。
学校が始まってからいくら探してみても、神社で見かけた子供たちは見つからなかった。
仲良くなったクラスメイトの子に後から聞いた話では、あの神社では遊んではいけないと小さい時から言い聞かせられていたという。理由は、その子も知らないらしい・・・。

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