第132話「蝿(はえ)」

プーン・・・。
教室を蝿が飛んでいた。
はじめは気にしないようにしていたけど、だんだん不快になってきた。
目で追っていたら、僕の3つ前に座っているKさんの首の後ろに止まった。
Kさんは気づいていない。
Kさんは、僕の高校の男子の間でアイドル的な存在だった。幼い顔立ちなのに、少し憂いをおびていて、口数も少ない。ミステリアスな雰囲気を持っていてアニメのヒロインが現実になったような女子だ。
そのKさんの身体に止まるとは、蝿もお目が高い。そんなことを考えていたら、蝿はKさんから飛び立って窓の外に出ていった。

また別の日。その日も教室を蝿が飛んでいた。プンプンうるさくて目障りだなと思っていたら、またしても、蝿はKさんの身体に止まった。
偶然なのだろうか?
30人いる他の生徒には目をくれず、Kさんに止まるのはなにか理由があるのだろうか?

「蝿が好きなフェロモンでも出してるんじゃない?」
親友のFに疑問を投げかけてみると、Fはそう言った。
「そんなフェロモンあんの?」
「いや、知らないけど」
たいした話ではないのかもしれないけど、妙に引っ掛かった。

さらに別の日。帰りに偶然、Kさんを見かけた。

プーン・・・。

またしても蝿がKさんの身体に止まった。やはりおかしい。蝿はKさんばかりに止まる。もしかしたら教室に舞い込んでくるのもKさんがいるからかもしれない。
僕とFは、Kさんの後をつけることにした。蝿の謎を解こうという好奇心半分、Kさんの私生活を知りたいという単純な男心半分だったけど、端から見ればヤバイクラスメイトに違いなかった。

Kさんは、どこにも寄らずまっすぐ家に帰った。似たような建て売り住宅が並ぶ地域の一軒がKさんの自宅だった。
Kさんが家に入ってしばらくすると二階の部屋の明かりが点いた。あそこがKさんの部屋らしい。
「俺達これじゃまるっきりストーカーじゃないか?」Fが至極まっとうなことを言った。
その時だった。
プーン・・・。
蝿の羽音が聞こえた。
蝿は隣家とKさんの家の間の隙間に入っていった。
「おい、なんだよ、あれ!」
隙間を覗き見たFが声を上げた。
黒い塊が飛んでいた。
・・・それは蝿の群れだった。
蝿の群れはKさんの家の窓に入ろうとしているように見えた。
「なにしてるの!」
上から声が降ってきた。
二階の窓からKさんが僕たちを見下ろしていた。
学校では見かけたことがないような醜悪な顔でこちらを睨んでいた。
僕とFは走ってそこから逃げた。

まもなくKさんは警察に逮捕された。
Kさんは不仲だった両親を殺害し、しばらく遺体と一緒に暮らしていたのだった。

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