【怖い話】エレベーター(短編)

マンションのエレベーターでよく顔を合わせる親子がいる。
お腹が膨らんだ妊婦の母親と、小学生くらいの女の子。
女の子は恥ずかしいからか、いつもお母さんの服の裾をつかんでいて、お母さんは出産が近いのか顔に疲れが滲んでいた。
何度も顔を合わせるので、自然と挨拶をかわすようなったのだが、日に日に妊婦のお母さんの顔色が悪くなっていっている気がして、「大変ですね」と声をかけた。
お母さんは苦笑して返事をした。
「はじめての出産で色々わからないことだらけで」
エレベーターを降りて、歩いていく親子の背中を見つめ、私はキョトンとしてしまった。

はじめての出産?
じゃあ、その女の子は・・・。
いや、でも再婚相手の連れ子の可能性もあるか、とすぐに思いなおした。

けど、ふと、思い出してしまった。
なぜ何百世帯も暮らすこのマンションであの親子が妙に記憶に残っていたのか。

女の子がいつも同じ服装だからだ・・・。

母親の服の裾をつかんでいた女の子が私の方を振り返った。
その顔に、邪悪な笑みが浮かんだように見えたのは気のせいか。

私は子供が無事産まれることを心から祈った・・・。

#600

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