【怖い話】アラーム

ジリリリリリ・・・!!

けたたましいアラームの音がして、枕元のスマホに手を伸ばす。
まどろんだままアラームを切ろうとするが、一向に鳴りやまない。
おかしいなと思ってふと気がついた。
こんな音のアラームを設定した覚えはない。
ハッと覚醒してスマホを確認すると、時刻は朝4時37分。
まだ陽ものぼっていない。
自分のスマホのアラームじゃないとすれば近隣の部屋の目覚ましだろうか。
でも、隣の部屋の音がこんなにはっきりと聞こえたことなど今までなかったし、アラーム音はすぐ近くから聞こえた気がした。
寝ぼけて夢でも見たのだろうか、なんとも不思議な感覚だった。

ところが、それから数日おきに謎のアラーム音で目を覚ますようになった。
時刻は決まって朝の4時37分。
何度聞いても音のでどころはわからない。
けど、寝ている自分のすぐ近くなのは間違いない。
気味が悪くて、だんだん寝つきが悪くなってきた。
金縛りにあったとか幽霊が枕元に立ったとかではないけど、明日も正体不明の音に起こされるのではないかと思うと、ストレスでしかなかった。
せめて音の出どころがわかれば溜飲も下がるのだけれど。

やがて、アラーム音がストレスになって、眠れなくなってしまった。
起きていれば音の正体がわかるかと思ったけど、何度トライしても、4時37分になってジリリリリというアラーム音が鳴り出し、でどころを探すうちに音は止んでしまった。
すぐ近くなのに、音のでどころがわからない。
まるで音の幽霊のようだった。

ある時、ついに我慢の限界がきて、家を出てビジネスホテルに泊まることにした。
簡単な宿泊準備をして近所の安いホテルに泊まった。
その日は久しぶりに朝までぐっすり眠れた。

朝起きると、知らない番号と実家から朝方に着信がたくさん入っていた。
なんだろうと思って、実家に折り返しかけてみると、母親が涙声で言った。
「無事なの?今朝アパートが火事になったって、不動産管理会社の人から連絡あったのよ!」
「えっ!」

慌ててアパートに帰った僕は、呆然とするしかなかった。
木造アパートはみるかげもなかった。
一部の柱や壁が真っ黒に炭と化して残っているだけで、ほぼ全て燃え尽くされていた。
その時、挨拶したことがあるアパートの住人の姿を見かけた。
向こうも僕に気がついて近寄ってきた。
「まいったよな、全部焼けちまって」
「何時くらいに火事になったんですか」
僕は聞いた。
「朝の4時半とかだったよ」
4時半、、、。
「慌てて逃げて、なんとか助かったけど。キミは外出中だったの?」
「はい・・・」
「運がよかったね。キミの部屋の近くらしいよ、出火場所」
「え・・・?」
「だから、てっきり・・・」
それ以上は続けないでくれたけど、言わんとしていることはわかった。
昨日もしも自分の部屋で寝ていたらと思うと、ゾッと寒気がした。
「出火原因はなんなんですか?」
「さぁ。警察の話じゃ不審火らしいよ」
「放火ってことですか?」
すると、近所の人は頭をガリガリと掻いて困惑して言った。
「まさか同じアパートでまた火事にあうなんて思わなかったよ」
「また?二回目ってことですか?」
「あぁ、3年前にも燃えてるんだよ、このアパート。その時は半焼で済んだんだけどさ、、、」
2回も同じアパートが火事になったという事実に僕は衝撃をうけるしかなかった。

近所の人とわかれた後もしばらく僕はアパート跡地の前に立ち尽くしていた。
さっきから同じことをずっとグルグル考えている。
毎朝4時37分に鳴ったアラーム音。
アレと火事には何か関係があるのだろうか。
あのアラームが鳴らなければ僕はいまごろ家で寝ていて命を落としていたかもしれない。
とすれば、アラーム音は警告してくれていたのだろうか。
でも、なぜ、、、
いくら考えても答えは出なかった。

僕は転居先が決まるまで実家に帰ることになった。
まだ学生の身分だったので助かった。
大学もしばらく休もうかと思っていた。
荷物はすべて燃えてしまったので、身軽だったのがたった唯一の不幸中の幸いだった。
ただ、火災後の諸々の手続きを想像すると辟易とした。

実家の僕の部屋は以前のままだった。
ベッドに横になると、どっと疲労が押し寄せてきて、あっという間に眠りに落ちた。

気がつくと部屋は真っ暗だった。
どれくらい寝ていたのだろう。
時間の感覚がなかった。
スマホを手に取ると、am4:34だった。
もうすぐアラーム音が鳴る時刻。
ジワリと嫌な汗が浮かんだ。
もう何も起きるはずがない。
そう思うのに、胸がドキドキする。
4:36・・・4:37。
問題の時刻になった。
・・・何も起こらない。
フーッと大きく息を吐く。
あのアパートだけの現象に決まってる。
何を恐れているのかと馬鹿らしくなって笑いがこみ上げてきた。
その時、なんだか奇妙なニオイがした。
こげくさい。
肉が燃えているような嫌なニオイだ。
まさか、、、。
僕は慌てて起き上がろうとして、ハッとした。
ベッドの前に黒い影があった。
こげたニオイはその影から漂ってきていた。
目が暗闇に慣れて影の正体が見えてくる。
それは火傷を負った両足だった。
焼けただれた皮膚がめくれ、赤い肉がはみでている。
その時、僕はハッと悟った。
4:37に鳴っていたのはアラーム音なんかじゃない。
・・・火災の警報器の音だ!
毎日毎日鳴っていたのは警告のためではなかった。
「3年前にも火事があったんだよ、このアパート」
近所の住人の言葉を急に思い出す。
その火事の犠牲者は?
もしかして、3年前の火事も朝の4:37に起きたんじゃないのか。
ズチャ、と音がして、火傷を負った足が僕の方へ一歩近づいてきた。
肉が腐ったニオイがたちこめる。
恐怖で身動きができず、足から目が離せない。
ズチャ、ズチャ、ズチャ。
火傷を負った足が目の前にある。
上を見たら絶対にダメだ!僕は震えながら、目の前の足を注視する。
その時、頭の上から声が降ってきた。
「・・・アツイ・・・アツイヨ」
僕は反射的に声の方を見てしまった。
真っ黒く焼け焦げた顔から血走った両眼が僕を見下ろしていた、、、

次に気がついた時は昼過ぎだった。
夢だったのだろうか、、、
外気は寒いのに、身体が汗だくで熱を持っていた。
まるで火に炙られていたかのような、そんな嫌な熱さだった。

後で調べてみたら、3年前のアパートの火災で犠牲になった人がやはりいた。
おそらく僕が住んでいた同じ部屋なのだろう。
火災の日付けを確認して驚いた。
3年前の火災があった日は、ちょうど今回、アパートが燃えた日とまったく同じ日だった。
命日だったのだ。
いまださまよう魂が、警報器の音とともに4:37に現れていたということなのだろうか。
そう思うと物悲しい気持ちになった。

ただ、ひとつだけ謎が残った。
3年前の出火原因も放火で犯人は捕まっていないらしい。
3年前と今回、いったい誰がアパートに火をつけたのだろうか、、、
幽霊が火をつけるなどということはないと信じたいが、あのアパートがあった場所では今後も何か起きるのではないかという予感がした。

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