呪の源

最近、ついていないことがあまりにも多い。
交通事故にあったり、会社の業績が傾き閑職に追いやられたり、恋人の浮気が発覚したり。
あまりに重なるので、これは何か原因があるんじゃないかと、40歳になって初めて、路上に机を出している街角占い師のもとを訪れてしまった。
そして言われたのが、『あなたには悪い霊がついてます』。
この先のアドバイスなりを求めていた私は突飛な霊的発言にキョトンとしてしまったが、よく考えたら、思い当たる節はある。
肩は重いし、家には誰かがいるような気配がある。
そう思いたかっただけなのかもしれないが。
『子供の頃、遊び半分で自殺の名所などに行きませんでした?』
記憶をたどってみる。
そういえば、中学2年の時、友達と地元で有名な心霊スポットの橋で肝試しをしたことを思い出した。
『その時、取り憑いた霊が今もあなたに取り憑いています。あなたを自殺させて連れていこうとしています』
『何十年もずっと、取り憑いていたってことですか?』
『ええ、そうです。本来はあなたは陽の気を持った方です。だからまだ命までは取られていない。おそらくあなたは、本来、しなくてもいい苦労をされてきたんです』
思えば、40年の人生、辛苦の方が圧倒的に多かった。
幸せを感じた瞬間なんて思い出せない。
大学受験の失敗、就職先での陰湿なイジメ、両親の突然の他界、婚約破棄。
不幸な出来事は数え上げればキリがない。
その全てが、取り憑いた霊の仕業だったというのか。
中学2年のたった1回の肝試しで私の人生は狂ってしまったというのか。
ぶつけどころのない怒りがふつふつと湧いてくるのを感じた。
『どうしたら霊を祓えますか?』
そう聞くと、占い師は机の下からはじめてみるパッケージのペットボトルの水を取り出した。
『聖水を薄めて作った飲み水です。これを毎日欠かさず飲めば少しずつ霊は祓えます・・・ただ、これは市場に出回っていないものなので』
『おいくらですか?霊がはらえるならいくらでも払います』
『とても希少価値が高いので、1カートンで、10万円になってしまいます』
『10万!?水が?毎月数カートンも買ったらとてもじゃないが支払えない』
『そうですよね』
と水をしまおうとする占い師を私は止めた。
『買います。お金は借りればいい。こんな状態が治るのであればどんな苦労もおしみません』

その場で買った1カートンの聖水を手に私は意気揚々と家路についた。
歩きながらさっそく今日の一本を飲んでみた。
カルキ臭くて水道水みたいな味がしたが、身体の中が浄化されたような気がした。
こんなに気分がいいのは久しぶりだ。
スキップでもしたいくらいだ。
なんだか今日はいつも以上に肩が重い気もするけど、水を飲み続ければきっとこれも治るのだろう、、、そう信じるしかない。

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