【怖い話】【怪談】穴

ボクの小学校の同級生にOくんという男の子がいた。
Oくんは少し性格が歪んでいるところがあって、生き物を虐めて楽しむような子だった。
誰にも言うなと口止めされて黙っていたけど、小学校で飼っていたウサギに画鋲を何個も刺したのはOくんだ。
血が出てもピョンピョン走り回っていたうさぎの姿は今でも目に焼きついている。
Oくんの心が荒んでしまった背景には複雑な家庭環境があったのだけど、そんなことは虐められる生き物には関係ないし、どんな理由があったにせよ許される行為ではなかったと思う。
正直言って、ボクはOくんが嫌いだった。
けど、Oくんは半ば無理やりしつこくボクを遊びに誘った。
ボクの家も片親で、そういうところにOくんが一方的に親近感を覚えていたのかもしれない。

ある日の放課後。
Oくんに呼び出されたボクは学校から歩いて20分くらいのところにある、「たいら山」に連れていかれた。
本当の山の名前は別にあるのだけど、地元の人間は「たいら山」とか「おたいら様」とか呼ぶ。
標高わずか数百mしかなく、子供の足でも1時間もあれば頂上までいける。
たいら山は、その付近の子供達の格好の遊び場だった。
たいら山に行ってOくんがやることは決まっていた。
虫や動物を見つけては、羽をむしったり、石をなげつけたりする。
延々と飽きもせず興奮して生き物を追い回すOくんを見て、ボクは子供ながらにOくんの頭はどこかおかしいんだと思っていた。

「おい、こっち来てみろよ」
Oくんの呼ぶ声が藪の向こうからした。
藪を掻き分け声のする方へ行ってみると、地面にうずくまっているOくんの姿があった。
Oくんの視線の先を追うと、地面に直径5センチ程度の穴が空いていた。
モグラの巣かまたは蛇の巣かなとボクは思った。
「水入れたらどうなるかな」
Oくんが何を考えているかすぐにわかりボクはゾッとした。
Oくんは一度、山裾まで降りて、ゴミ集積所から2ℓのペットボトルの空き容器を拾うと、たいら山の公園でそのペットボトルの容器になみなみと水を注ぎ入れ、さきほどの穴の場所に戻ってきて、嬉々として容赦なく穴の中に水を注ぎ入れた。
中に生き物がいたとしたら溺れ死んだだろう。
かわいそうに、、、。
ボクは心の中で生き物の冥福を祈って、Oくんの代わりに謝った。

・・・Oくんの行方がわからなくなったのは、その数日後のことだった。
真夜中になっても自宅に帰らず、どこにも姿が見当たらないという緊急連絡が入った。
警察も動き出し、翌朝には地元のテレビのニュースでも取り上げられた。
さらわれたのか家出したのか、それすらもわからず、忽然とOくんは消えてしまった。

Oくんのことは嫌いだったけど、ボクはOくんの身を案じた。無事に帰ってきてほしかった。
何かできることはないかと考えて、Oくんと一緒に行った場所を巡って探してみることにした。
万に一つ見つかるかもしれない。そう思った。
たいら山の穴があった場所に着いたのは、もう何箇所も巡ってだいぶ疲れた後だった。
屋根もない藪の中にいるわけがないと思いながら、一応確認した。
むろん、Oくんの姿はなかった。
すぐに、引き返そうとした、その時だった。
微かにOくんの声が聞こえた気がした。
聞き間違いかもしれない程度の小さな声だ。
足を止め、立ち止まった。
木々の葉がこすれるサワサワという音に混じって、Oくんの声が再び聞こえた。
キョロキョロ周りを見回したけど、Oくんの姿はない。
名前を呼んでも返事はなかった。
けど、しばらく時間をあけて、またOくんの声がした。
耳をすませて、声の出所を探した。
・・・声は足元からしたような気がした。
そんな馬鹿な、、、
視線の先には、地面にあいた直径5センチほどの、あの穴があった。
Oくんが2ℓのペットボトルの水を目一杯注ぎ込んで水責めにした穴だ。
ボクは地面に手をつき、恐る恐る穴に耳を寄せてみた。

「・・た・・す・・・・け、て」

それは間違いなくOくんの声だった。
およそ人が入れるはずがない5センチ程度の穴の中から、Oくんの声がしたのだ。
ボクは恐怖で全身に寒気が走った。
叫びながら山を下りた。

そのことは、学校の先生に報告した。
信じてもらえないのはわかっていたけど、黙って自分の心に留めておくことはできなかった。
もちろん、先生は同級生が行方不明になったことに対するボクの心への影響の心配こそすれ、話を信じて「たいら山」の穴を掘り返したりはしなかった。
Eくんの行方は今もわかっていない・・・。

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