【怖い話】嘘つきの田中くん

 

遊びに来ていた友人のFが怖い話を話し出した。

「オレが小学生の頃の話なんだけどさ、嘘つきの田中くんてヤツがいて、もうこいつがどうしようもない嘘つきなわけ。
『昨日UFO見た』とかかわいい嘘ならいいんだけどさ、そいつ一人っ子のくせに、いない妹の話とかをずーっと真面目な顔してするんだよ。はじめはみんな真に受けてたけど、嘘つきだってわかってからは、あーそういうヤツなんだって感じでみんなつきあってたんだけどさ。
不思議なんだけど、そんな嘘つきなのにクラスでハブかれたり、イジメられてた記憶が全然なくて、嘘つきってコミュ力高いのかね?田中くんも、なんだかんだいつもクラスの中心にいたんだよ、不思議だけど。
田中くんの嘘は芸術だ、なんて言うヤツもいてさ、でも、確かに、田中くんて、自分がついた嘘を信じ込んでしまってるというか、なんかちょっと人として、かわいそうに見える部分があったのかもしれない。あー、こいつみたいになりたくいな、って思わせてくれる人って気が楽じゃん、そんな感じ。
けど、ある時、トラブルが起きてさ。
田中くんがまた嘘つくわけよ。
『オレ、親父がいないんだ』って。
みんなの関心を集めたかったのかなぁ、今となってはよくわからないけど、けど、その時はちょっと田中くんに不利だった。
田中くんは知らなかったらしいんだけど、田中くんの父親と、ある男子の親父さんが職場同じだったんだ。
もう言い逃れようないのにさ、真の嘘つきって、もはや嘘をつくことにプライドをもってんのかもしれないけど、まったく譲らなかったんだ、田中くん。
『それは人違いだ、オレの親父は行方知れずなんだ』って。
もう、田中くんに父親がいると証言してた方が押されちゃってさ、自分の父親が間違ってたのかな、って思っちゃったくらいの剣幕だったんだ。なんもまちがっちゃいないんだぜ?田中くんには父親、いるんだから。
けど、そこから、いつもと様子が違った。
本当に行方知れずになってしまったんだ、田中くんの父親。ある日、急に。
悪い嘘をつくから嘘が本当になったんだって陰口叩くヤツもいたけど、こんな意見もあった。
田中くんが自分の嘘を正当化するために実の父親を殺して遺体を隠したじゃないかって。
なんかオレはそっちの方がほんとうなんじゃないかって気がした。
田中くんてさ、どんな些細な嘘だって、一度も自分が嘘をついたなんて認めたことなかったんだ。
嘘だと認めないために現実を歪めるくらい、田中くんはやりそうな気がしたんだ。
結局、田中くんの父親は発見されなかった。
真相は闇の中ってわけ。
・・・どう怖かった?
え?この話自体嘘なんじゃないかって?
なんでそう思うんだよ。
え?田中くんが、その後どうなったか?
そんな病的な嘘つきなら社会生活送れないだろって?
いや、それは違うな。言ったろ。嘘つきはコミュ力が高いんだよ。
それに現に田中くんは立派にやってるよ。
・・・だってオレがその田中くんだから」

Fは大真面目な顔で言った。
Fが怖がらせようと嘘をついているのか、それとも。
でも、もしFが田中くんなのだとしたら、さっきの話自体が全て嘘ということか。
頭がぐちゃぐちゃした。
Fは、ただ静かに微笑みをたたえ僕を見つめていた。

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