【怪談】穴場
僕は、昔から怪談や怖い話が大好きで、
大学に入ると、1人で心霊スポットを訪れ、
撮影した写真をブログにアップするようになった。
ある時、とある地方の山奥にあるというトンネルの心霊スポットを訪ねた。
最寄り駅からトンネルまではタクシーで向かうことにした。
駅前は閑散として昼間だというのに人の気配がなかったけど幸い一台だけタクシーがとまっていた。
タクシーのドライバーさんは死んだ魚のような目をした陰気そうな感じの人だった。
ところが、僕が目的地の住所を告げた瞬間、バックミラー越しに見たドライバーさんの目が輝いた。
「お客さん、なんで××トンネルに行かれるんですか?あそこは今は使われてませんし、行きどまりですよ」
誤魔化しても仕方ないから僕はあるがままを話した。
すると、ドライバーさんは興味を持ったのか、
今までどんスポットに行ったのか教えて欲しいと言った。
今まで僕の心霊スポット探訪にそんなに食いついてくれた人がいなかったので、僕は武勇伝をしゃべるみたいに興奮して話した。
気がつくと、だいぶ山深いところまで来ていた。
「・・・私もね、仕事がら奇妙な体験をしたり、怖い目にあうことが多いんですよ」
ドライバーさんはそう言ってバックミラー越しに僕を見た。
ミラー越しに見たドライバーさんの顔は、出会った頃の陰気さはすっかりなくなり、血色がよくなり、若返ったように見えた。
怖い話が本当に好きな人なのだろう。
仲間を見つけたような気持ちで僕は嬉しかった。
「そうだ、お客さん。××トンネルとは別で、実はこのあたりに、穴場の心霊スポットがあるんですよ」
「穴場?」
「地元の人間もほとんど知らないスポットでね。ヤバさでいったら××トンネルなんて子供だましじゃないかな」
「そ・・・そこに案内してもらえませんか!?」
僕は興奮して言った。
日本中のいわゆる心霊スポットと呼ばれる場所はほとんどが行き尽くされていて、インターネットで調べれば何かしら引っかかる。
新しい心霊スポットの発見は、生き物の新種を発見するのと同じぐらい貴重で名誉なことなのだ。
少なくとも僕はそう思っている。
「お客さんなら、そう言うと思ってましたよ」
ドライバーさんはハンドルを切って、
車をUターンさせると、さらに山深くへ入る道へと車を進めた。
車一台がやっと通れるかどうかの細さで、舗装されているのが不思議なくらい下草が道路まで侵食していた。
「今から向かう場所は、どんなところなんですか?」
「まあ、それは着いてからのお楽しみということにしましょう」
ドライバーさんはニィと口を引っ張って伸ばしたような笑い方をした。
山の空気が重たく陰鬱な気配に変わった。
心霊スポットには何度も行っているのでわかる。
これは本当にヤバい場所だ。
人が立ち入ってはいけない領域に入ってしまった感覚があった。
背中を冷や汗が流れるのがわかった。
「有名な場所じゃないんですよね。どうして、地元の人にも知られていないんですか?」
「それはね、、、誰も戻ってきた人間がいないからなんですよ」
誰も戻ってきたことがないのに、どうしてあなたはそのスポットのことをご存知なんですか?
思い浮かんだ疑問が今にも口に出そうになった。
けど、それを聞いてはいけない気がした。
ドライバーさんは、さっきからずっと同じ顔をしていた。
腹話術のように口元が動かず、一ミリも表情が変わらないのに、声だけははっきり聞こえる。
まるで'何か'がタクシードライバーというマスクを被っているかのようだった。
タクシーは停まる気配もなく、ずんずん山の奥へと入っていった。
目的地につくまで降ろすつもりはないらしい。
僕は後悔し始めていた。
おそらく僕はもう戻ってこれない、そんな確信めいた気持ちがあった・・・。
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