【怖い話】蜘蛛の糸

 

これは、先日、
大学のテニスサークルのメンバーで、
1泊2日のキャンプに行った時に体験した怖い話です。

私達は30名ほどの大所帯で、
夕飯のバーベキューから、
男子も女子も飲んで騒いで、
「乱痴気」という言葉がぴったりの有様で、
辺りは、お肉とお酒と男女のにおいで充満していました。
私はお酒が飲めないのもあって、
必然的に片付けなどの雑用をする羽目になりました。
むしろ、大騒ぎする子達に混じりたくなくて、
あえて雑用を引き受けていたような気がします。
夜も更けた頃、
お酒が足りないという話になり、
キャンプ場から500mほど離れた場所にある、
コンビニへ買い出しに行くことになりました。
私は率先して手をあげました。
この場所から少しでも離れて新鮮な山の空気を吸いたいという気持ちでした。
私を含め、酔いが回ってない4人で買い出しに行くことになりました。

キャンプ場から遊歩道を歩いていくと、
舗装された峠道に出るという話でした。

ところが、この遊歩道には、
明かりがまったくなく懐中電灯の明かりだけを頼りに
下草だらけの山道を歩かなくてはならず、
ちょっとした肝試しみたいなものでした。
4人もいれば怖いことも起きないだろうと思いましたが、
不安はありました。

男子2人が前を歩き、
私はJちゃんという同じ学年の女子と並んで歩きました。
Jちゃんは、少しお酒が入っていましたが、
いつも通りな感じでした。
「なんかあの場所にいたら、余計に飲まされそうで、抜けたかったんだよね」
Jちゃんは屈託なく笑っていいました。

しばらく歩くと、水の音が聞こえてきました。

沢があり、その上に吊り橋がかかっていました。
吊り橋は揺れる感じではなく、しっかり固定されていました。

吊り橋を中腹まで歩いた時でした。
腕に、ささいな感触がありました。
髪の毛くらいの糸がフワリと触れているような、
ほんのささいな感触・・・。
蜘蛛の巣を引っ掛けてしまったのだと思いました。
闇雲に払ってみましたが、
細く透明な蜘蛛の糸は、
腕に残ったままのようでした。

・・・コンビニで追加の飲み物やおつまみを買ってキャンプ場に帰ってからは、
買い出しメンバーで花火をしました。
大騒ぎを遠くに見ていただけの私にとっては、
このキャンプに参加して初めて楽しいと思える時間でした。
ただ・・・。
「どうかした?」
Jちゃんに声をかけられ、ハッとしました。
消えた花火を手にボーっとしていました。
私が気になっていたのは、
蜘蛛の糸がまだ取れていないような感覚があったことです。
腕の毛穴をさわさわとなでられているような不快感。
Jちゃんが、懐中電灯で見てくれましたけど、
肉眼では見つけることができませんでした。

「こっち向いて」
男子メンバーの声がした方を向くと、
スマホのカメラが向けられていました。
とっさに笑顔とピースを作ったのと、
シャッターが切られたのがほぼ同時でした。

ところが、撮影した写真を見せてもらって、
私はギョッとしました。

私の腕に、別人の腕が重なっていたのです。
その腕は半透明で、角度的にJちゃんの腕ではありえません。
「なにこれ・・・心霊、写真?」
Jちゃんと男子メンバーも息を呑んでいました。
その時、また腕にさわさわと感触があって、
私はハッとしました。
蜘蛛の糸じゃない、これは人の手が触れる感触だ。
本当の恐怖を感じたのは人生でそれがはじめてだったかもしれません。

幸い翌朝になると腕の感触はなくなっていました。

よかった・・・。
その時はそう思ったのですが、
ただ、今でも時折、
何もない場所で、ふいに蜘蛛の巣を引っかけてしまったような感覚がすることがあるのです。

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