【怪談】秩父湖の怖い話

 

これは大学の時、友人達とドライブをしていて体験した怖い話です。

当時、車の免許を取り立てだった僕たちは、
しょっちゅう目的もなく車を走らせて遊びにいっていました。

その日も、特に目的もなく走らせるうち、栃木県にたどり着き、ラーメンを食べて温泉に入って、真夜中に帰ってきていました。

遊び疲れて会話も少なくなっていた頃。
前方にトンネルがあらわれました。

「本当に道あってる?」
僕はドライバーをしていたXにそうたずねました。
というのも、そのトンネルが車一台がようやく通れるかくらいの狭さな上、岩肌があらわになっていて、不気味な感じがしたのです。
「大丈夫なはずだけど」
Xはカーナビの画面をコツコツ叩きながら言いました。
ですが、その当時は今のようにナビの精度がよくなく、ナビに騙されて道を見失うことはしばしばありました。

トンネルを進むと、信号機があって道が二股に分かれていました。
道が分かれるトンネルなんてはじめてだったので、不安が一層高まりました。
分かれ道を左に進み、しばらくするとトンネルを抜けました。

目の前が急に開けました。
普通の道路でないのはすぐにわかりました。
車はダムの上を走っていました。
ナビを見ると、「秩父湖」と表示がありました。

ダムを抜けると、山道に入っていきました。
「なんかここ、怖くないか」
後部座席のYが言いました。
同感でした。
入ってはいけはい場所に迷い込んでしまった、
そんな感覚がありました。
「引き返さないか」
僕は提案しました。
「でもナビが!」
ドライバーのXは苛立ったように言いました。
Xは引き返すどころか、感情的になって、
車の速度を上げていきました。
「なあ、戻ろうぜ」
Yが後ろからいいました。
これ以上進んだらいけない、
その感覚はますます強くなりました。

その時でした。
車のヘッドライトが歩行者の姿を浮かび上がらせました。
車と同じ方向に歩いていたので、こちらから見えるのは後ろ姿だけでしたが、女性でした。

「あの女の人に道聞いてみようぜ」
Xは言いました。
けど、僕は胸騒ぎがしました。
こんな夜中に、女性が1人で山道を歩いているなんて、変じゃないか。
そう思ったのです。
「引き返そう!」
僕は強めに言いました。
「あの女の人に道を聞いたら引き返すよ」
Xは譲りませんでした。
ぐんぐん女の人との距離が縮まっていきました。
行ったらいけない、僕の心の警告は、増していきました。
「俺、トイレ。だめだ。さっきコンビニあったじゃん。頼む、戻って」
後部座席のYが前に身を乗り出して言いました。
Yは一瞬、僕に目配せしました。
気をきかせて、戻る口実を作ってくれたのだとわかりました。
「X、俺もトイレ。戻ってくれ」
丁寧に頼むと、Xは、さっきまでの切迫したような表情ではなくなり、
すっと憑き物が落ちたような顔でいいました。
「仕方ないな」
車はUターンして、来た道を引き返しました。

コンビニに到着して、
カーナビを確認すると、
もう、ナビは秩父湖に続く道を案内してはいませんでした。
一体なんだったのだろう。
そう思っていると、トイレからYが戻ってきました。
浮かない顔をしています。
「どうした?」
「お前、見なかったの?」
「なにを?」
「・・・俺さ、車がUターンする時、バックミラー越しに、歩いてた女の人見たんだ。そうしたら、向こうも振り返ってこっちを見てて・・・いや、何でもない。気のせいだ、きっと」
それきり、Yがその話を持ち出すことはありませんでした。

後で調べてみたら、僕たちが進んでいた先には、秩父湖にかかる吊り橋があって、
その橋は有名な心霊スポットなのだそうです。
あのまま進んでいたら、どうなっていたのでしょう。
想像すると、怖くなりました。

それに、Yがバックミラー越しに見てしまったものは、なんだったのか。
それは今もって謎のままです。

なぜなら、Yはドライブの数週間後に、事故で亡くなってしまったのです。
死因は溺死でした。
飲み会の帰り、
酔って橋から転落しての事故でした。
でも、本当に事故だったのでしょうか。
今でも僕は納得できずにいます。

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