人形トイレ

 

私が通う中学校の4階女子トイレには、なぜか市松人形が流し場に飾られています。
他の階のトイレには一つも飾られていないのに。

4階には美術室や音楽室があり、吹奏楽部に入っていた私は4階のトイレを使う機会がたくさんありました。
トイレで手を洗っていると人形に見られているような視線を感じ、怖くて仕方ありませんでした。

そんなトイレに怖い噂がないわけがありません。

個室から出てくると流し場の人形の向きが変わっているという話や、夜になると人形の泣き声が聞こえるといった話が、学校の怪談として生徒達に噂されていました。
先生達も、どういう理由でトイレに人形が置かれることになったのか誰も知らないのだそうです。
過去に何度も、人形を廃棄しようとする動きがあったようですが、捨てようとして人形に触れた人は、必ず謎の高熱にうなされ、中には亡くなった方もいたといいます。
以来、触れると障りがある呪いの人形は4階女子トイレにずっと放置されてきたのだといいます。

先日、新しく赴任したI先生が吹奏楽部の顧問になりました。
I先生は、4階女子トイレの流し場の人形を気味悪がりました。
無理もありません。
トイレに行くたび、市松人形に出迎えられるのです。
ある時、I先生は、人形を片付けると言いだしました。
私達生徒は、人形にまつわる恐ろしい噂を伝え、止めたのですが、I先生は「実家がお寺だから供養してもらう」と言って、人形を持ち帰りました。

翌日からI先生は学校にこなくなりました。
体調不良ということでしたが、生徒達の間では人形の呪いでI先生の身に何か恐ろしいことが起きたに違いないという話でもちきりでした。
1ヶ月経ってもI先生は復帰することなく、退職したという知らせだけが伝わってきました。

やはりあの人形に触れてはいけなかったんだ。
私達は、そう噂しあいました。

I先生退職の知らせを聞いた翌日のことです。
朝練のため音楽室に向かっていた私は、女子トイレの前で足を止めました。
身がすくみました。
I先生が持って行ったはずの市松人形が、女子トイレの流し場から、こちらを見ていたのです・・・。

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