【怖い話】タイトルのないビデオカメラ

2018/04/19

 

俺の地元には小さなレンタルビデオ屋が一軒あるだけだった。

ツタヤが今みたいに全国に広まる前。
まだDVDも普及しておらずビデオカセットだった時代の話だ。

その店は、スペースも広くなく、品揃えは偏っていた。
店にはいつも週刊紙を読んでいる店主が一人いるだけ。
探している映画について聞いてもちんぷんかんぷんな答えしか返ってこない。
店主の興味も店の売り上げも店内の半分以上の棚を埋める子供は借りられないビデオに占められていた。
けど、他にお店がないので、見たい映画があればそこで借りるしかなかった。

ある日のことだ。
ビデオを借りようとフラッと立ち寄った。
俺以外にお客さんはいなかった。
棚からめぼしいタイトルを探した。
その店の陳列は本当にいい加減で、新作と旧作は混じっているし、ジャンル別やタイトル順に整理されてるわけでもない。
毎回、根気よく棚を探さないといけなかった。

ふと、あるビデオに目が留まった。
真っ黒なパッケージ。
タイトルの記載もない。
箱を開けると、無地のテープがカセットに貼ってあった。
・・・なんだろう。
興味が湧いた。
いい加減な店主のことだ。
店の奥ののれんで仕切られたスペースのビデオを間違って置いていたのかなと思った。
借りようとしたらどうなるか試したくなった。
当時は中学生だ。
そういうものに興味がないわけではなかった。
ただ、多くの同級生が親の会員証でいかがわしいビデオを借りようとして玉砕していた。
いつもはいい加減な店主も、そういうところだけはしっかりしていた。

俺は、他にも棚から2本、適当なビデオをつかみとって、レジに向かった。
ドキドキした。
店主はのっそりとした動きでビデオを確認した。
「900円」
・・・止められなかった。
俺は精算を済ませると、急いで自宅に帰った。

自分の部屋に閉じこもり鍵をかけた。
さっそく、デッキに、真っ黒いパッケージでタイトルのないビデオをセットした。
再生ボタンを押す。
ドキドキした。
砂嵐がだんだん収まり、映像が映し出された。

・・・モノクロの一軒家。
・・・まるで時間が止まったように動きがない。
・・・叫び声とガラスが割れる音。

映像はそれだけだった。
なんだこれ?
誰かの私物だろうか?
自主映画かなにかだろうか?
がっかりだった。

さっさと返却してしまおうと思ったけど、
突然、当のレンタルビデオ屋が閉店してしまった。
店主が体調をくずしたらしいという噂だった。
借りているビデオは回収されることなく手元に残った。

例のタイトルのないビデオは、持っている必要もないので捨てようと思った。
捨てる前にもう一度、見てみると映像は何も再生されなかった。
カセットが壊れてしまったのだろうか。
不思議だったけど、あまり気にせず不燃ゴミの日に捨ててしまった。

・・・そのビデオのことは、もう何十年も忘れていた。
けど、先日、奇妙な出来事があり、思い出すことになった。
妻が、よさそうな中古の一軒家の物件を見つけたというので、
一緒に見学に行った。
デジャブという感覚をはじめて味わった。
あのビデオに映っていたモノクロの一軒家が目の前にあった。
あのビデオは、この家を撮影したものだったのだろうか。
・・・いや、本当にそうだろうか。
この家に引っ越したらいけない。
直感がそう告げていた
けど、物件を見学した妻はすっかりその家に惚れ込んでしまい、
あれよあれよと引っ越す運びになってしまった。

引っ越してもうすぐ1年・・・。
何か恐ろしいことが起きるのではないかという感覚はいまだに消えていない。

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