【怖い話】浜松城にて #212

 

これは先日、浜松に主人と遊びに行ったときに体験した怖い話です。

昼食に名物の鰻を食べると、主人が浜松城に行ってみないかと観光案内マップを指差していいました。

浜松城は、市街地にあります。
無料の駐車場に車を停め、城郭目指して公園を歩いていきました。
浜松城は地上4階建のとても小振りなお城でした。
展示物を眺めながら、天守閣まであがっていくと、それほど高さはありませんでしたが、
市街を眺めながら、心地よく風を感じることができました。
すると、主人が財布から100円玉を取り出し、言いました。
「やってみるか」
天守閣には、100円で使用できる双眼鏡が備え付けられていました。観光地でよく見かけるものです。
普段そんなことはしない人なので、今日はよほど気分がいいのだろうなと思いました。
浜松に遊びに来てよかったと改めて思いました。
お互い仕事と子育てに忙しく、夫婦水入らずで過ごすのは何十年振りのような気がしました。
「なにか見える?」
双眼鏡を覗いてる主人に問いかけました。
けど、主人から返事はありませんでした。
じっと、双眼鏡をのぞいています。
「あなた?」
その時、私は気がつきました。
主人の身体が震えていることに。
「あなた!大丈夫?」
私は主人の肩を叩きました。
ハッとしたように、主人が双眼鏡から目を離しました。
「何が見えたの?」
「いや、たいしたものは見えなかったよ」
歯にものがはさまったような言い方でした。主人はそれから目に見えて口数が減りました。
何度か「さっき何を見たの?」とたずねましたが、「いや、なにも」とはぐらかされるだけでした。

それが主人と一緒に出掛けた最後になりました。主人は、それからまもなくして、就寝中に心臓発作を起こして帰らぬ人となりました。
49日がたって、ようやく気持ちの整理がついて、主人の持ち物を整理してみると、
まるで自分の死を予期していたかのように、全てきれいに整えられていることに気がつきました。
今思い返してみますと、主人は浜松城の双眼鏡で、自分の死を暗示する何かをみてしまったのではないか。
そんな気がしてならないのです。

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