子役オーディションにまつわる怖い話 #272
昔、テレビ局でADをしていた知り合いから聞いた怖い話。
あるドラマ企画で、子役のオーディションをおこなった。
メインの子役の同級生役を何名か募集していて、端役だけど台詞がいくつかあった。
選考はドラマプロデューサーと監督と脚本家
によって審査がおこなわれた。
オーディションにくるのは劇団や事務所所属の子役がほとんどだ。挨拶がしっかりとできるいい子が多い。逆に、とがった子や変わった子は少ないという。
そんな中、ある親子が会場に現れた。
その瞬間、オーディション会場がシンと静まり返ったという。
凜とした佇まいの美少女。
肌は透き通るように白く、人形のように整った顔立ち。
伏し目がちなところも、恥ずかしさというより、優美な所作に見えた。
『天使のような』という言葉がぴったりの美少女だった。
ぷっくりとして脂ぎった顔をした母親とは似ても似つかない。
もちろん即合格が決まった。
それどころか次世代のスター候補が現れたと、関係者一同、興奮気味だった。
ところが、全員の審査が終わり合格発表をするはずだったのだが、そこで問題が起こった。
例の美少女の母親が、「娘がいない」と騒ぎだしたのだ。
関係者で局内を捜索したけど見当たらず、警備員は局の外に出ていないという。
連れ去られた・・・?
関係者に動揺が走った。
あれ程の美少女だから、悪い人間に目をつけられたとしてもおかしくないと誰もが思った。
結局、少女は発見されず、警察を呼ぶことになった。
ところが、再び事態は急展する。
警察が母親に事情を聞いていると、どうも様子がおかしい。
娘のことなのに、話がちぐはぐだった。
通ってる学校名を言えなかったり、父親について聞くと話を濁した。
はじめは動揺のせいかと思われたが、そうではなかった。
二人は親子ではなかったのだ。
刑事の追求に女は認めた。
女は小さな劇団に所属する売れない女優だった。
ある日、通りで、たまたま天使のような少女を見かけ、金の卵と思った女は、少女に声をかけてオーディションに連れてきたのだった。
連れ去っていたのは、母親と思われていた女の方だった。
本当の両親に連絡を取らないといけないが、当の本人がいないのでは、対処に困ってしまった。
その時、
オーディションの様子を撮影していたカメラマンがプロデューサーに声をかけた。
見てほしいものがあるという。
忙しいから後にしてくれとプロデューサーが言うと、どうしても今見てほしいとカメラマンは引かなかった。
カメラマンはオーディションの様子を撮影していた映像をモニターに映すと、早送りして、ある場面で止めた。
例の美少女のオーディションのシーンのはずだった。
プロデューサーは目を疑った。
・・・少女が映っていない。
誰も座っていない椅子に向かって質問を飛ばすテレビ局関係者の声が続く。
母親のフリをしていた女が画面奥に映っているので、間違いなく少女がその場にいたのをプロデューサー自身の目で見ている。
なのに、映っていない・・・。
結局、うやむやのまま警察は引き上げることになった。決め手はプロデューサーが見せた映像だった。
その後、オーディション映像を見た関係者が全員体調を崩すという事態が続いた。
あの少女は、天使どころか、魔性の存在だったのではないか。
後にプロデューサーは、そう言っていたという。
芸能は人間の業と繋がりが深いため、この手の怖い話が実は多いのだという。