【怖い話】【心霊】第164話「怖いの怖いの飛んでけ」

 

「怖いの怖いの飛んでけ」
小さい頃、祖母はよくそうやって僕にまじないをかけてくれた。
当たり前に他の家でも行われているのだと思っていた。
怪我をした時に、「痛いの痛いの飛んでけ」とまじないをかけるのだと知ったのは中学生になってからだ。
祖母が僕にまじないをかけるのは、怪我をした時ではなかった。フラッとやってきては、まじないをかけて、またどこかに行ってしまう、そんな感じだった。
祖母のまじないはよく効いた。暗い気持ちやむしゃくしゃした気持ちがスッと消えるのだ。
祖母が亡くなるまで、そのまじないの意味は聞けずじまいだった。
祖母が亡くなった頃から僕は荒れ始めた。常にイライラして何にも希望が見いだせず、周りの友人たちともうまくいかなくなって孤立した。
このままではダメだ、そう思った僕は、自分自身に対して「怖いの怖いの飛んでけ」とまじないをかけるようになった。
思い込みの力なのかわからないが、まじない
をかけるようになってからは、色々なことが上向いていった。
そんな僕も大学を出て就職し、最近、結婚もして子供が生まれた。
まだ言葉もわからない赤ん坊だけど、僕は、なにかあるたびに抱っこしながら「怖いの怖いの飛んでけ」とまじないをかけている。
「なぁに、それ?」妻には笑われているけど、かまわない。
きっと将来、この子も同じまじないをかけるようになる、そんな予感があった。
ある時。
いつものように、抱っこしながら「怖いの怖いの飛んでけ」とあやしていたら、娘の表情が不快そうに歪んだ。
「・・・イヤだね」
娘の口から、男の野太い声が聞こえた気がした。一体、今のは・・・。
今こそ祖母の助けが必要な気がした。

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