【怖い話】【心霊】第165話「さえずり」

 

定年を迎え会社を退職してから、近くの山にバードウォッチングに行くようになった。
ちょうどいい運動にもなるし、シジュウカラやオナガなどのたくさんの鳥がいて、今日はどんな鳥に出会えるか想像すると、子供の時のようにワクワクした。
また、彼らのさえずりはオーケストラのようで、聞いていると心が癒されるのだった。

今日は珍しく、まだ一羽にも出会えていなかった。
せめて一羽くらいにはと、いつもより山の奥へと進んでいった。
その時だった・・・。
ギャギャギャギャギャ・・・。
聞いたこともない鳴き声が聞こえた。
カラスのような気もしたが、もっと濁っていて、聞いていると不安な気持ちになる鳴き声だった。
私は、まだ見たことがない鳥かもしれないという期待に胸が踊った。
鳴き声がした方向に藪をかき分けて走った。
ギャッギャッギャッギャッギャッ・・・。
上空からなお鳴き声は聞こえる。
方向は間違っていないようだ。
やがて、開けた草地に出た。そこには、一軒の民家が建っていた。
上空を見上げると、黒い影が民家の2階の窓に飛び込むのが見えた。
なんと・・・、鳥は家の中に入り込んでしまった。すぐに出てくるだろうと思ったのだけど、予想に反して、なかなか姿を現さない。
迷ったが、新しい鳥を見る誘惑に負け、民家の玄関チャイムを押した。
30代くらいの女性が出てきた。
事情を話すと女性は快く家に上げてくれた。
2階に上り、鳥が迷い込んだ部屋へ通された。
開いた窓。
カーテンが風にそよそよと揺れている。
部屋を見回す。
ギャッ!
部屋の隅のベビーベッドから鳴き声は聞こえた。
覗き込むと、そこにいたのは鳥ではなく人間の赤ん坊だった。
ギャッギャッギャッ!
その鳴き声は間違いなく赤ん坊の口から聞こえた。
一体これは・・・。
頭が真っ白になった。
すると、後ろからも、
ギャッギャッ!と鳴き声がした。
振り返ると、漆黒の羽を生やした大きな鳥が立っていた。快く家に上げてくれた女性が、ワシのように鋭い目で私を睨んでいた。

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