第116話「エイプリルフールの怖い話」
2019/11/25
4月1日・・・。
エイプリルフールに私の身に起きた恐ろしい出来事を話そう。
私は、親友のメグミにどっきりを仕掛けることにした。
メグミには付き合って3年になる彼氏・タツマ君がいる。
その彼氏と私が実は浮気してるという嘘をついてみようと思った。
ちょっとした思いつきのイタズラ。
メグミがどんな反応をするか楽しみだった。
4月1日は、ちょうど仕事が休みだったので、メグミと彼氏が同棲するマンションに遊びに行った。
彼はまだ寝ているという。
始めはとりとめのない話をしながら普段通り過ごしていた。
しばらくして、私は深刻顔で「・・・話があるの」と切り出す。
「ごめんね。タツマくんと関係を持ってしまったの。メグミを裏切るつもりはなかったの」
我ながら迫真の演技。
さて、メグミはどんな反応をするか・・・。
予想に反してメグミは無反応だった。
ゼンマイ仕掛けのおもちゃのネジが切れたみたいに固まっている。
そして、ふと立ち上がると、廊下の奥に消えた。
しばらくして、寝室の方から「ギャー」という、うめき声が聞こえた。
慌てて寝室に駆けつけると、ベッドに血まみれのタツマくんが倒れていた。
びくりともしていない。
死んでいる。
傍らに包丁を手にしたメグミが立っていた。
・・・嘘、嘘、嘘。なにこれ?
私のささいなイタズラのせいで、こんなことに?
「わかってたのよ。二人が怪しいって前から思ってたの・・・」
「メグミ。タツマ君くんの関係は、嘘だったのよ、エイプリルフールだから、私、イタズラで・・・」
「いまさら、とぼけないでよ!!」
メグミは取り乱し包丁を振り回した。
私は、どうしていいかわからず、メグミを落ち着かせなきゃと思って近くにあった置時計でメグミの頭を殴った。
ゴトッと音がして、メグミが床に倒れた。
カーペットに血がにじんでいく。
すると、死んでいたはずのタツマくんがムクリと起き上がった。
「なんてことを!全部、メグミのドッキリだったのに!」
メグミは私が嘘をついているのをわかって、タツマくんを殺したフリをしたのだった。よく見れば、ベッドに飛び散っているのは血じゃなくてケチャップだった。騙したつもりが、騙されていたのだ。
頭が混乱した。
「病院、いや、警察に!」
タツマくんはパニックを起こしながら、ベッドサイドのスマホを手にした。
ほぼ無意識だった。私は床の包丁を拾い上げ、○○君の喉に突き刺した。
思いつきの嘘が原因で警察に捕まるなんてごめんだ・・・。
夜、私は警察に呼び出された。
メグミとタツマくんが無理心中したようなので、事情を聞きたいとのことだった。
「二人は前々からソリが合わなくてよく喧嘩をしてました・・・」
嘘・・・結婚の約束をしてました。
「メグミは、いっそ彼氏を殺して、自分も死のうかなんてもらしてました」
嘘・・・うざいくらいにラブラブでした。
するすると嘘が出てくる。
若い刑事さんは、親友を亡くした女友達という設定をいとも簡単に信じてくれた。
「あなたも大変でしたね・・・」
優しい言葉に涙をほろりと流す。ちょろいもんだ。
その時、ふと、刑事さんが、時計を見上げた。12時を過ぎていた。
突然、刑事さんが私の手に手錠をかけた。
「なんですか、急に!?」
「日も替わったことだし、あなたのお遊びに付き合うのはおしまいです。
二人を殺したのはあなたでしょう?現場を見れば一目瞭然ですよ。エイプリールフールですからね」
刑事さんは、ニヤリと笑った。
刑事さんは、私に同情したフリをしてただけだった。
なんてヤツだ。
裁判で、私はメグミの彼氏と浮気をしていて、
こじれた関係を清算するため二人を殺害したことになってしまった。
どんなに違うと言っても、誰も信じてくれない。
実際、違うのに。
人は自分達が信じようとしたものしか信じない。
・・・嘘なんてつくものじゃない。
刑務所の中で、今日も私はしみじみと思う。