第80話「行列」

僕には、行列ができていると気になって並んでしまう癖があった。
なんのお店やイベントなのかわからなくても吸い寄せられるように最後尾に並んでしまうのだ。
要するにミーハーなのだろう。

その日も仕事帰りに行列を見つけて、ついつい最後尾に並んでしまった。
長い行列は雑居ビルの1階テナントに向かって伸びている。
看板の類は見えないから何のお店なのかはわからない。
並んでいる人たちは老若男女バラバラだった。
ラーメン屋か何かだろうか。意外なところで占いとかもあるかもしれない。
ちょっとワクワクしながら自分の番が来るのを待っていたら、たまたま同僚の女性社員が通りかかった。
「××さん、何やってるんですか!?」同僚は驚いたように言った。
「何の列なのか気になっちゃってさ」僕は、並んでいるところを見られて気恥ずかしさを感じながら言った。
すると、同僚は、「ダメですよ!」と言って僕を無理やり列から引っ張り出した。
僕が抜けた隙間は、後続の人にあっという間に埋められてしまった。
「なにするんだよ・・・」
困惑する僕に同僚は言った。
「何の列に並んでいるかわかってるんですか?」
「いや・・・」
「霊道ですよ」
「・・・へ?」
聞くと同僚には霊感があるらしく、僕が並んでいたのは霊の通り道にできた列なのだという。
よく見てみると、列を作っている人たちはどこか存在がおぼろげでシルエットがかげっていた。
あのまま並んでいたら僕はどうなっていたのだろう・・・。
それ以降、行列に並ぶ前にお店を確かめるようにしている。

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