第81話「赤いコート」

高校1年生の冬のことだった。
登校途中に同じ高校の女子生徒と会った。
見たことがない顔だった。
ただ、その女子が、制服の上から真っ赤なコートを着ていたので、すごく印象に残った。

それから数日後。今度は学校帰り。同じ高校の女子が5、6人で帰っているのを見かけた。
普段だったらスルーしてしまうような当たり前の光景だけど、その時は違った。
全員、お揃いの赤いコートを着ていたのだ。

赤いコートが流行っているのだろうか?友達の間では、話題にも上ったことがないけど・・・。
テレビでも雑誌でもツイッターでも、誰も赤いコートが流行っているなんて言っていない。
一部の人たちの間で流行しているのだろうか。なんだかモヤモヤした。

気になった私は、ファッションにうるさいクラスメイトの一人に、赤いコートが流行っているらしいんだけど知ってる?と電話で聞いてみた。
その子は、「そんなん流行ってないっしょ」と笑って答えくれたので、私は安心した。

でも、次の日、私は目を疑った。昨日電話したクラスメイトが赤いコートを着て登校してきたのだ。そればかりか、クラスの半数以上の女子が赤いコートを着ていた。
どうして?何が起きてるの?やっぱり流行っているの?
慌ててネットで急上昇ワードなどを調べてみたけど、赤いコートなんて、まったく引っかかってこない。
私は、なんだか怖くなって、昨日電話した子にも話しかけられなかった。
私だけを取り残して世界が回っているような孤独な気持ちが込み上げてきた。

その日の帰り。呆然とするしかなかった。
下校する女子のほとんどが赤いコートを着ていた。
赤いコートの集団の中、私一人だけ紺のコート。
恥ずかしくて、どこかへ行ってしまいたい気持ちになった。

その日、私は、まっすぐ家に帰らず、駅前のデパートに立ち寄った。
もちろん赤いコートを買うためだ。
ところが服屋さんを何軒訪ねてみても赤いコートなんて置いてなかった。
「今、流行ってるんですよね!?」私はいい加減イライラして言った。
「はぁ・・・」店員さんは怪訝そうな顔で見てくる。
なんなの?ムカつくムカつく。自分ばかり仲間外れにされているような気がした。

10軒ほど回って、ようやく赤いコートを見つけた。
これで、明日から浮かなくてすむ。
そう思うと、高い買い物だったが、満足感が湧いてきた。

翌日。私は赤いコートを着て高校に向かった。
けど、おかしい・・・。
その日に限って、赤いコートを着ている人に会わない。
校門前に来ると、登校する大勢の生徒たちがいた。
誰も赤いコートなど着ていなかった・・・。
私一人だけ真っ赤に目立つコートを着ていた。
「あの子、すごくない?真っ赤だよ」そんな声がどこからか聞こえてくる。
一体、私はどうしてしまったのか・・・。
・・・誰か教えて欲しい。

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