第63話「死者の書」

2016/10/01

この前、近所の古本屋さんで小説を買った。
けっこう有名な作家さんの代表作のミステリーで、読んだことがなくてたまたま目に留まったのだった。
だいぶ焼けて黄ばんでいて状態はよくなかったけど、50円のワゴンセールで売ってたんで、まあ、いいかと思った。
いつもみたいにブックカバーをつけて通勤の電車の中で、毎日、ちょっとずつ読み進めていた。
そんなある日、ちょっとおかしなことが起きた。
前回どこまで読んだかわかるように必ずしおりを挟んでおくんだけど、その日は、どうもストーリー展開についていけない。パラパラと遡ってみたら、記憶にある箇所から50ページ以上後を読んでいた。しおりを挟んであったページが違ってたんだ。
まあ、ボーッとしていて挟むページを間違えたんだろうなと思ったんだけど、次の日も挟んだ覚えのないページにしおりが挟まっていた。
なんかおかしいぞと思い始めた、その日の夜のこと。
ベッドで寝ていると、ふと目を覚ました。
寝返りを打つと、机の上に置いたそのミステリー小説が、風にふかれてパラパラとページがめくれているのが見えた。
でも、よく考えたらおかしいんだ。
・・・その夜は風なんて吹いていなかった。
ページがめくれていくスピードもおかしかった。
風に吹かれたらパラパラパラって勢いよくめくれていくと思うけど、1ページ1ページゆっくりめくれていっていた。
まるで、見えない誰かが本を読んでいるみたいだった・・・
ぞーっと背筋が寒くなった。
見たらいけないと思って、ゆっくりともう一度寝返りを打って反対側を向いた。
背中の方から、紙がめくれていくサッサッという音が聞こえてくる。
怖くて仕方なかったけど、気がついたら眠ってしまっていた。
起きた時には、小説はきちんと閉じられていた。
ただ、しおりの場所は、また、おかしくなっていた。
この本、なんか、やばい・・・。
直感的に手放した方がいいだろうなと思ったので、お金にはならなかったけど、買ったのとは別の古本屋に0円で引き取ってもらった。

それっきり忘れていたんだけど、しばらくして本好きの友人から怖い話を聞いた。
例の小説を引き取ってもらった古本屋で、怪奇現象が起きているという。
店員さんが朝出社すると、きまって一冊の本が書棚から落ちているのだという。
その本のタイトルは、俺が売ったミステリー小説と同じだった。
たぶん、俺が引き取ってもらった本に間違いないと思う。
古本屋さんは、その本をお祓いしてお寺に引き取ってもらうことにしたらしい。
そういう怪奇現象は今回に限ったことではないらしく、古本屋さんでは、たまーに起きるのだという。
「死んだ人間が生前、持っていた本には念が宿るらしいからな」と友人は言っていた。
みなさんも古本を買う時には気をつけて欲しい。
本の中身がいくら怖くなくても、その本自体に、何らかの念がこもっている可能性は十分にあるのだ。

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