第64話「メモ」

2016/10/01

これは、小学生の時に体験した話です。

僕には、Aくんという仲がいい友達がいました。
よく二人で僕の家でゲームをしたりして遊んでいました。
けど、遊ぶのはいつも僕の家ばかりで、絶対、Aくんの家に誘ってはくれませんでした。何度か頼んでみたのですが、曖昧にごまかされてしまうのです。
家には呼びたくないのかなと、ちょっと寂しい気持ちでした。

5年生の夏休み明け9月のことです。Aくんが学校にこなくなりました。体調不良ということでしたが、2週間も経つとさすがにおかしいなと思いました。
担任の先生は、クラスでAくんに対するイジメがあったのではないかと疑い、アンケートを実施しましたが、イジメなどなかったのは仲がよかった僕が一番知っています。担任の先生にそのことを伝えると、先生もAくんが学校に来ない理由がわからなくて困っているようでした。

ある日の学校帰り。
僕はAくんの家に行ってみることにしました。
Aくんの家は一軒家でした。玄関までのアプローチの両脇に花が飾ってあって、僕の家より新しくお洒落な感じがしました。
チャイムを押すと、Aくんのお母さんがドアを開けて顔を出しました。僕のお母さんより若くて、ニコニコしていて優しそうな人でした。
初対面だったのですが、Aくんのお母さんは僕を知っていました。
「いつも仲良くしてくれてありがとうね」と微笑みかけてくれました。
「Aくん、まだ体調悪いんですか」と僕はたずねました。
「・・・そうなの。早く学校に行けるといいのだけど」
「会えますか?」
「ちょっと聞いてみるわね」
数分後、Aくんのお母さんが戻ってきました。
「ごめんね。誰にも会いたくないって」
「・・・そうですか」
僕は悲しくなりました。何か悩みがあるなら一人で抱えないで言って欲しいと思いました。
そんなことを考えながら、とぼとぼと引き返していた時でした。
足元に何かが落ちているのに気がつきました。
紙をグチャグチャに丸めたものでした。
「やあね、ゴミかしら」
いきなりAくんのお母さんが目の前に現れました。
Aくんのお母さんは僕の手から紙を取ると、「捨てておくわね」と言って家の中に引き返していきました。

6年生になってもAくんは学校に来ませんでした。
久しぶりにAくんの家に様子を見に行ってみることにしました。
すると、Aくんのお母さんが庭でホウキを使って掃除をしていました。
よく見ると、ゴミは、全て紙をクチャッと丸めたものでした。
「あら、久しぶり。大きくなったわね」
僕に気がつくとAくんのお母さんは、微笑みかけてくれました。
「誰がこんなの捨てていくのかしらねえ、困ってるのよ」
聞いてもいないのにAくんのお母さんは言いました。
その時、ちりとりの中の紙の一枚に書きなぐったような文字が書かれているのが見えました。

たす

そう書いてあるのが見えました。
僕はハッとして二階を見上げました。
カーテンの隙間から誰かがこっちを見ているような気がしました。
「‥‥Aくん、元気ですか?」
僕は、Aくんのお母さんにたずねました。
「最近、ちょっとよくなってきたのよ」
そう言ったAくんのお母さんは相変わらず微笑みを浮かべていましたが、口の端がヒクヒクして、目も笑っていませんでした。
僕はゾッとして、逃げるようにその場を後にしました。
たすけて。
あの紙はAくんのSOSなのではないか。
そう思ったのですが、どうしたらいいのかわかりませんでした。僕の親や担任の先生にそれとなく伝えようとしてみましたが、ダメでした。

高校生になった今でも、Aくんの家の庭で掃除をしているお母さんを見かけます・・・。

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