私の”怖い”友達

人怖

私には”怖い”友達がいる。
中学校の同級生で名前はFくんという。

Fくんは私の中学2年の時のクラスメイトだった。
Fくんは容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群と三拍子揃った男子生徒だった。
だけど、他の生徒と比べてモテたり嫉妬されたりいじめられたりしていたかといえば、そんなことは全くなく、むしろ、みんなから距離を置かれていた。
後から考えれば、みんな本能的にFくんに危険なものを感じ取っていたのかもしれない。
私はというと、知的なうんちくで笑わせてくれ、明るく朗らかなFくんが好きだった。
なぜみんながFくんを遠巻きにして腫れ物扱いするのか当時はまるで理解できなかった。

私はよくFくんとつるんで遊んでいたのだけど、私からすると、Fくんには一つだけ困ったところがあった。
とても努力家で凝り性だということだ。
私からすればそれがFくんの欠点だった。
自分にできないことがあると、できるようになるまで、時間も忘れて没頭するのだ。
例えば、バスケットをして遊んでいると、Fくんは連続10回シュートを決めると自分の中で決心して、達成できるまで時間も無視してトライし続けるのだ。
途中まで私も付き合っていたのだけど、日が暮れてもやり続けるので、付き合いきれなくなって家に帰ってしまった。
「ごめんね」
去り際に声をかけたが、Fくんの耳には届いていなかったようで、Fくんはひたすらゴールに向かってシュートしていた。
翌日聞いてみると、23時頃に10本達成できたという。
Fくんの手はボールのなげすぎで血豆だらけだった。
途中で止めに来ない家族もどうかと思ったものだ。
また、ある時はこんなこともあった。
当時、難易度が高すぎてほとんどの人がクリアできないで有名なテレビゲームを私が持っていて私の家でFくんと二人でプレイしていたのだけど、どうしてもクリアができなかった。
私はとっくに心折れて、早々に別のゲームをしたかったのだけど、Fくんは、いずれきっとクリアできると言って、いくら私がいっても諦めてくれなかった。
夕ご飯の時間になってもFくんはそのゲームをやり続け、「そろそろ家に帰らなくていいの?」と私が尋ねても、一向に帰ってくれなかった。
ついには、私の親に説得してもらって、Fくんにそのゲームを貸すことで、納得してやっと帰ってくれた。
よくいえば完璧主義ということなのかもしれないが、Fくんの場合は、いきすぎていた。
そんなものだから、はじめはFくんに興味を持ったり好意を持って近づいてくる人もいるのだけど、Fくんの凝り性に付き合い切れなくなってみんな離れていくのだ。
やがてクラスも変わると、私には新しい友達ができて付き合いが生まれ、だんだんとFくんと疎遠になっていった。
その後、いつからかFくんが学校に来なくなったという噂を聞いた。
Fくんと友達づきあいしていたのは私くらいだったし、誰もFくんにはついていけないと思うので、Fくんが学校生活に馴染めないのは仕方ないような気持ちも正直してしまった。
……そのうちFくんに会いに行こう。
私はそう思ったまま、新しい友達付き合いや高校受験に忙殺され、いつからかFくんのことは頭の隅に追いやられていった。

そして、結局、Fくんとは一度もコンタクトを取らないまま、高校と大学を卒業して、私は社会人になった。
社会人になって数年した頃、中学校の同窓会の通知が届いて私は出席することにした。
それほど同窓会に行きたいと思ったわけではなかったけど、もしかしたらFくんと再会できるかもしれないと思ったのだ。
色々な言い訳をしながら、ついぞFくんに会いにいかなかったことは私の後悔として心に棘のように刺さっていた。
だが、同窓会でFくんに再会するというのは淡い期待で終わった。
Fくんは出席していなかったのだ。

浮かない気持ちのまま私は同窓会を早々に中座した。
とぼとぼと通い慣れた地元の道を歩いているうち、私はふとFくんの家に行ってみようかと思い立った。
何回か行ったことがあるのでFくんの実家の住所は知っていた。
まだFくんが実家に残って暮らしている可能性は低いと思ったが、ご両親から何か話くらい聞けるかもしれない。

Fくんの家は当時と全く変わっていなかった。
インターフォンを押すと、Fくんのお母さんが顔を出した。
面影はあったがずいぶん老けていた。
Fくんのお母さんは、私の顔を見るや、「Fなら部屋にいますよ」と言って、踵を返し戻っていってしまった。
私はしばし呆気に取られ固まってしまった。
……部屋にいる?Fくんが?
それを当たり前のことかのように伝えて戻ってしまったお母さんの態度が奇妙ではあったが、Fくんがいるのは喜ばしいことだった。
「お邪魔します」
私は記憶を頼りにFくんの部屋だった場所のドアを開けた。
Fくんはそこにいた。
暗い部屋の中、テレビの明かりだけが部屋を明るく照らしていた。
Fくんは背中を向けて、テレビ画面を見ていた。
「……久しぶりだね」
Fくんは振り返らずに言った。
私が来たとわかったらしい。
「久しぶり……ごめん」
「何がだい?」
「……もっと早く会いに来るべきだったね」
「どうして?ちょうどよかったよ」
「え?」
「……だって、もうすぐクリアできるから」
「は?」
その時、テレビの画面が視界に入ってきて、私は唖然とした。
懐かしい映像。
Fくんは昔のゲームをしていた。
中学生の時、私とFくんが二人でプレイしてクリアできなかった難易度が高すぎるあのゲームだ。
「もうすぐ、もうすぐ、クリアできるんだ」
Fくんはガリガリに瘦せていた。
凝り性で努力家のFくん。
できるようになるまで、時間も忘れて没頭するFくん。
完璧主義のFくん。
私は恐ろしい可能性に思い至り、恐る恐るたずねた。
「……もしかして、今までずっと、そのゲームをやってたのかい?何年も?」
「もちろんだよ、あとちょっとでクリアできそうなんだ」
Fくんはゲーム画面を見つめたまま爛々と目を輝かせて言った。
Fくんは当時全く到達すらできなかった最終ステージに進んでいた。
「覚えてるかい?あの約束」
ふいにFくんが言った。
「……約束?」
何のことかさっぱりわからなかった。
「もしこのゲームをクリアできたら、お互い言うことを何でも聞くって」
思い出した。
当時、そんな賭けをしてゲームをしていた。
どうせクリアできないからどんな賭けをしようが関係ないと考えていた気がする。
「楽しみだなぁ。何をお願いしよう」
そう言ってFくんは目を見開いて笑った。
……一体私は何をお願いされるのだろう。
もはや恐怖でしかなかった。
この部屋から今すぐ逃げ出したい。
そう思った時、Fくんはまさにゲームをクリアしようとしていた……。

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