【怖い話】スリーノックは死の予兆

イギリスの古い迷信の中に、誰もいないのにドアが3回ノックされると、人が死ぬという言い伝えがある。
破滅の3ノックは、死の予兆として人々に恐れられてきた。
ここ日本にも似たような事例が報告されている。

ある地方に住むAさんという男性の話だ。

Aさんは、妹と両親、祖父母の6人暮らし。
家は、築100年以上の日本家屋で代々長男が継いできた。
ある日、Aさんが居間でマンガを読んでいると、玄関を、とんとんとんと3回叩く音がした。
来客だと思い、Aさんは腰を上げ、玄関に向かった。
ところが戸を開けると表には誰も立っていなかった。
その夜、祖父が死んだ。
心筋梗塞だった。

それから数年後。
Aさんがたまたま居間に1人でいた時、玄関をとんとんとんと3回ノックする音が聞こえた。
玄関に行くと、表には誰もいなかった。
その夜、今度は祖母がクモ膜下出血で倒れて帰らぬ人となった。

祖父の時のノックのことなどすっかり忘れていたAさんだったけれど、2人が亡くなる直前に奇妙なノック音が玄関からしたのは果たして偶然なのだろうかと思った。
あの3回のノックは、2人の死を暗示していたのではないか、そんな気がして背筋が寒くなった。

それからまた数年後。
大学生になったAさんは夏休みに久しぶりに実家に帰ってきていた。
夕飯にお酒を飲んでいい気分で居間で横になっていると、とんとんとんという音がしてハッと目が覚めた。
3ノックだ・・・
その夜、Aさんは両親のどちらかに何か起きるのではないかと気が気ではなかった。
2人とも病気らしい病気をしたこともなく、定年近くても健康体なのが自慢だったので、妙に身体を気遣ってくるAさんを不思議そうに見るだけだった。
しかし、Aさんがおそれていたことは現実となった。
タバコを切らした父親が自宅から徒歩数分のところにある自動販売機に向かう途中で居眠り運転の車にはねられて死んだのだ。
父を失った悲しみ以上に、Aさんの心を支配したのは恐怖だった。
他の家族には聞こえない3ノックの死の予兆。
祖父母に続いて父までも死んだとなっては、ノックは3人の死を暗示していたのは間違いない。
どうして自分にだけ聞こえるのか。
次は自分かもしれない。
何気ない普通のノック音にまでビクビクするようになり、Aさんは慢性的な不眠に陥った。
3ノックの恐怖は、Aさんの心をじわじわと蝕んでいった。

大学を卒業するとAさんはやむをえず地元に戻って就職した。
父の死以来、Aさんは、家族に当たるようになり、モノを壊したり、ちょっとしたことで癇癪を起こすようになった。
3ノックに対する言い知れない恐怖が、Aさんを変えてしまったのだ。

そして、とうとうAさんに最後通牒が下される。

とんとんとん

仕事から帰って玄関をくぐった瞬間、おもむろに背中から聞こえたノック音。
恐る恐る振り返ってドアを開けると、やはり表には誰も立っていない。
いよいよ来てしまった、、、
今夜、この家の誰かか死ぬのだ。
逃れる術はない。
Aさんは額に浮かぶ脂汗を拭い、自分の部屋へ向かった。

その夜、Aさんの母親と妹が刺殺された。
駆けつけた警察が発見したのは、血まみれの包丁を手に2人の遺体の前に立つAさんの姿だった。
自分の死への恐怖がAさんの心を壊し、凶行に駆り立てたのだった。
結果的に3ノックの予兆は実現してしまった。

警察の発表では、精神を病んだ長男が家族を手にかけた事件となっている。
だが、この痛ましい事件の要因が、3ノックの死の予兆にあることは間違いない。
Aさんは、その後、医療刑務所に収監された。
診察した医師は、Aさんが異常なほどドアや扉のノックを恐れると報告している。

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