これは私が働いている新宿のバーのママ・Bさんから聞いた怖い話です。
『・・・私の家の近所に大宗寺というお寺があるんだけどね、
そのお寺には閻魔さまの像が祀られていて、怖い言い伝えがあるんだって。
まだ、この辺り一体が宿場町だった頃。
1人の乳母がお寺の境内で子供を背負い、子守をしていたんだって。
子供が泣き始めて、いくらあやしても止まなくなって困った乳母は、
「そんなに悪い子は閻魔様に食べられてしまうよ」と子供に言ったの。
そしたら、鳴き声がぴたりと止んだんだって。
乳母はホッとしたんだけど、すぐに違和感に気づいたの。
背中が妙に軽くなったの。
振り向くと背中の子供の姿が忽然と消えていたんだって。
あわてて境内を探すと、
閻魔様の像の口から紐がぶら下がっているのを乳母は見つけたの。
それはさっきまで子供をおぶっていたおんぶ紐で、
子供は本当に閻魔様の像に食べられてしまったんだと、
そういう言い伝えが残ってるんですって・・・
でね、その話を聞いて、私、そのお寺に通ったのよ。
もし、閻魔様の話が本当なら、ロクデナシの彼を殺してくれるかもって思ったの。
毎日通って、本堂の前で手を合わせて、「あいつを殺してください」って祈ったわ。
そうしたら、本当に消えたのよ、あいつ。
ある日急に。煙のように。
いまだに行方はわかってない。
東京はこれだけ人口が多いから、1人くらいいなくなっても誰も気にしないしね。
本当に閻魔様が殺してくれたのか気になって、ある時、
本堂の中を覗いてみたんだけどね、
そしたら、あいつがつけていたピアスが閻魔像の近くに落ちていたの。
嘘じゃないわよ、本当の話・・・』
そう言ってBさんは笑った。
どこまで本当なのだろうかと私は思った。
穀潰しの彼氏のせいですっかりBさんの頭がおかしくなってしまった可能性もある。
けど、本当に閻魔像が食べてくれたのだとしたら・・・。
私は早速、明日から、閻魔像があるという大宗寺に通おうと決めた。
私にもどうしても消して欲しい相手がいる。
それも目の前に。
Bさんがいなければ、この店は私のものになるのだ。
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