【怖い話】コマ撮り

Eさんは、映像制作会社につとめている30代の男性。
同僚の先輩に同年代のJさんという人がいる。
Jさんは、自称コミュ障だが、映画やアニメに造詣が深く、EさんはJさんと話すのが楽しく仲良くさせてもらっていた。
Jさんは、映像編集が本業なのだけど、本業とは別に、ストップモーションの映像制作をするという趣味を持っていて、YouTubeなどのSNSで作品を発表していた。
ストップモーションとは、コマ撮りともいい、静止しているフィギュアなどを1コマずつ動かして撮影し、連続して再生することで、実際には止まっているモノがあたかも動いているように見せる映像技術のことだ。
Jさんのストップモーション作品は、部屋のおもちゃが動き出し冒険を繰り広げるトイストーリーみたいな動画だったり、食材をスライスしているといつの間にか全く別の食材に変わっているというマジックのような動画だったり、楽しさと驚きに溢れた作品が多く、Eさんはいちファンとして新しい動画がアップされるのを心待ちにしていた。

ある日の晩、Jさんの新作動画がアップされたという通知がきたので、Eさんは、いつものように動画をチェックすると、おかしなことに気づいた。
その日の動画は、ストップモーションクッキングの動画だったのだが、まな板で食材を切っている背後で、ビスクドールの人形がウネウネと踊るような奇妙な動きをしていた。
クッキングが主題の動画にもかかわらず、人形の動きが奇妙なせいで、そちらにばかり目がいってしまう。
いつものJさんらしくない演出だった。
Eさんは、JさんにLINEでメッセージを送った。
『なんか今日の動画、いつもと違います?』
すると、『なにか変だった?』とすぐにメッセージが返ってきた。
『後ろの人形。ちょっとホラー回かと思いました』
しばらく時間が空いて、LINEの通知がきた。
『あんな人形使ってない・・・』
Eさんは固まった。
だとしたら、心霊動画ということか、、、
いや、Jさんの冗談かもしれないなと思い直して、『怖がらせようとしてますw?』と軽い感じで返事を書いてみたが、そのメッセージは朝になっても既読にならないままだった。

動画がアップされた次の日、Jさんは会社を欠勤していた。
体調不良らしい。
その日も一日中、LINEは既読にならなかった。
次の日も、Jさんは会社に来ていなかった。
Jさんの上長に様子を聞いてみたのだが、言葉を濁すばかりで要領を得なかった。
Eさんは、仕事帰りに、Jさんのマンションを訪ねてみた。
ところが、インターフォンを何度押しても、Jさんが出てくることはなかった。

なにかあったのだろうか。
日々、心配が募っていった。
そんなある日、突然、JさんのYouTubeチャンネルに新しい動画がアップされたという通知がきた。
すぐにEさんは動画を確認したが、動画の内容は不可解なものだった。
人物写真を使ったコマ撮り動画なのだが、一枚一枚の写真に映る人物も風景もバラバラでまったく関連性がなく、ストップモーションになっていなかった。
我慢して全部見てみたが、何を伝えようとしているのかさっぱりわからなかった。
およそJさんらしからぬ作品だ。
Jさんの精神状態は相当危ういのではないか。
Eさんは、Jさんに電話をかけてみた。
どうせ繋がらないだろうと思ったけど、数度目のコールでJさんが出た。
「おぅ、Eか。どうした?」
「Jさん!大丈夫なんですか?会社ずっと休んでるってききましたけど」
「大丈夫大丈夫。元気だよ」
Jさんの声は妙にテンションが高かった。
「なにかあったんですか?」
「いや、動画作りに没頭しちゃってさ。それで、会社を休んでただけなんだ」
「動画作りって、YouTubeにアップしている動画ですか?」
「見てくれたのか?どうだった?すごいだろ」
こんな訳のわからない動画を作るためにJさんは会社を休んでいたというのか。
やはりJさんはメンタルに問題を抱えているにちがいない。Eさんはそう思った。
「ストップモーションはやめてしまったんですか?」
Eさんは、嘆くようにいった。変わっていくJさんを見るのが辛かった。
「なにいってんだよ、立派なストップモーションだろ?今まで誰も作ったことがない作品だろ」
「これのどこがですか」
「E。お前、わかってないな。その写真は、全部、心霊写真なのさ。全て同じ霊が映り込んでいる写真を使ってコマ撮り動画を作ったんだ。よく目を凝らして見てみろよ。霊の動きがわかるから」
Eさんは言葉を失った。
パソコンの画面にJさんの動画が流れている。
目を凝らして見続けていると、煙のようなモヤが動いているのが浮かび上がってくる。
そのモヤは、よく見ると、人の形をしていた。
画面に背中を向けている。
モヤの人は、動画が進むごとに、ゆっくり振り返り始めて、、、
Eさんは慌てて動画の再生を止めた。
「Jさん・・・」
しかし電話はすでに切れていた。
かけ直そうという気にはなれなかった。

Jさんはほどなくして会社を退職した。
JさんのYouTubeチャンネルは今も時折、更新されているのは知っているが、Eさんが二度と動画を見ることはなかった。

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