【怖い話】こたつ怪談

冬にこたつを愛用する家庭は今も多い。
置き炬燵も掘り炬燵も、布団によって外と内の境界に仕切られている。
境界がある場所には、この世のものざるモノ達が住み着きやすい。
ゆえに、こたつにまつわる怪談はいくつも報告されている。

よく耳にするのは、一人でこたつに足を入れ暖を取っていると、そこにいるはずのない人の足や手に触れるというもの。
さらに恐ろしい話になると、足がむずむずするので、こたつの中を覗いたら、真っ青な顔をした幽霊と目が合ったというものもある。

声が聞こえ、周囲を見回しても誰もおらず、耳を澄ますと、こたつの中からヒソヒソと何人もの話し声がしていたという怪談も報告されている。

珍しい話でいえば、置き炬燵のはずなのに足を差し入れたら掘り炬燵に変わっていたという話もある。
足がつかないほど深い穴ができていて、これはおかしいと頭を突っ込んで覗いてみたら、元の置き炬燵に戻っていたという。

今日は、そんな「こたつ怪談」の中の一つをご紹介したい。

Kさんは大学生。
2年生の冬のある日、同級生のアパートで飲んでいた時のことだった。
その日のメンバーはKさんを含めて男子4人。
こたつの四辺をちょうど囲むように座っていた。
おつまみをつまみながらお酒を飲んで、他愛のない話をしているうち、いつしか怪談話になっていた。
1人話し出すと、また別のメンバーが怖い話を始める。
気がつくと、4人全員話をしていた。
「そうだ。百物語をしようぜ」
百話の怪談を話すと本物の幽霊が出てくるといわれる百物語。
酔いも手伝って、悪ノリで4人で百物語を始めた。
4人で25周すればちょうど100話語り終えることになる。
意気込んで始めたものの、3巡ほどすると、すでにネタ切れの感じがあった。
Kさんは、しこたま飲んでいたので、うつらうつらしてきて、友達が語る怪談話がだんだんと耳に入ってこなくなってきた。
ハッと目覚めると部屋は真っ裏になっていた。
口元にヨダレのあと。
どうやらこたつで眠ってしまったらしい。
みんなも寝てるだろうと思って起き上がると、驚いたことに百物語は続いていた。
部屋を暗くして雰囲気を出しているらしい。
Kさんの右隣の友達が話している最中だった。
いったい今何巡目なのだろう。
話を腰を折るのも悪いので、Kさんはそのまま怪談を聞くことにした。
「・・・でな、たまたまそのコンビニにオレが普段吸ってるタバコが売ってなかったんだよ。だから、別の銘柄のヤツを買って、あとコーヒーとジャンプが出てたから買ってさ、アパートに戻ろうとしたんだけどさ、どうも後ろから人がついてきている気配がするんだよ。住宅街だから街灯はそこそこあるんだけど真夜中だから、ひとけは全然なくて。オレが前に進むごとに気配もついてきて、オレが止まると気配も止まる。けど、後ろを振り返っても誰もいない。背筋が寒くなってきて、走ってアパートを目指したんだけど、そしたら、後ろの気配も走り出してさ。もう嫌だ!って思って、アパートの階段を駆け上がって、急いで部屋の鍵を開けて・・・」
その時、話に呼応するかのように、本当に部屋の玄関のドアが開く音がした。
心臓が飛び出そうだった。
こんな真夜中に誰が訪ねてくるというのか。
Kさんは、玄関ドアに目が釘付けになった。
いきなり部屋の明かりがパッとついた。
眩しさに目を細めて見ると、玄関に同級生3人の姿があった。
「あ、起きてる起きてる」
そんなわけがない。
3人は今こたつで向き合って、百物語をしているはずなのに。
そう思って、こたつの方を向き直ると、そこにいたはずの3人は煙のように消えていた。
怖さというより、呆気に取られるしかなかった。
まるでイリュージョンを見せられているようだった。
「3人でコンビニ行ってきたんだ。コーヒー買ってきたぞ」
部屋の持ち主がKさんにコーヒーを渡してくれた。
今起きた出来事に頭が追いつかない。
1人がテーブルに週刊ジャンプを置いた。
さっきまで目の前で『コンビニでジャンプを買った』と話していたはずの同級生だ。
「いや、でも怖かったな」
「いや、勘違いだろ」
「ほんとなんだって。絶対誰かついてきたから」
Kさんは、3人が何に盛り上がっているのかわからなかったけど、聞くと、コンビニからの帰り道、真っ暗な道を誰かがつけてきていた気配があったのだという。
「なぁ・・・」
Kさんは、粘つく口を開いた。
「売り切れてて、いつもと違うタバコ買わなかったか?」
ジャンプを置いた同級生に尋ねた。
「え?なんでわかったの?」
同級生は、そう言って、タバコをテーブルに置いた。確かに記憶にあるタバコの銘柄と違う。
・・・なんだろう、この符合は。
「大丈夫か?」
Kさんの様子がおかしかったからか、部屋の主がそう尋ねた。
Kさんは、さきほど体験した奇妙な出来事をありのまま語った。
話し終えると、みんな黙ってしまった。
偶然で片付けられる話ではないとみんなも感じているのだろう。
かと言って、納得のいく合理的な説明もつかない。
「やっぱり百物語やろうなんて言ったからいけなかったのかな」
「そうかもな」
「そういえば、結局、何話まで話したの?」
Kさんがそう尋ねると、場の空気がサッと変わった。
3人とも急に真顔になって見開いた目でKさんを見つめていた。
「・・・お前のさっきの話でちょうど百話だよ」
「え?」
次の瞬間、信じられないことが起きた。
こたつの中から、物凄い力で足を引っ張られたのだ。
抵抗する間もなく、Kさんの身体はこたつの中に吸い込まれた。

・・・真っ暗闇。

気がつくと、Kさんは自分の家のベッドで寝ていた。
わけがわからなかった。
瞬間移動でもしたのだろうか。
慌てて、同級生にLINEで昨日の出来事を確認するメッセージを送った。
けど、3人とも既読がつかない。
Kさんは、イライラしながら、ベッドから降りて、こたつにするりと入った。

あれ?

そこで、Kさんはおかしなことに気がついた。
Kさんの部屋には、こたつなんてないのだ。
怪異はまだ終わっていなかったのだ。
ゾゾゾと寒気が背中を走った。

けど、その後、Kさんが怖い目にあったり体調が悪くなどはなかった。
あの日飲んでいた同級生はお酒が入っていたせいで当時のことをよく覚えておらず、Kさんは普通に帰宅したと3人とも思っていた。
3人からそう言われると、飲みすぎただけなのかもしれないとKさんも思うようになった。

ただし、こたつだけは別だ。
昨日までは確かになかった。
いくら酔っていても、こたつを拾ってきたりはしないだろう。
このこたつはどこから現れたのか。

その答えはいまも出ていない。
障りがあったら怖いので捨てることもできず、そのこたつは、今もKさんの部屋にあるのだという。

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