【怖い話】遺品整理のアルバイト

 

学生の頃、遺品整理業者でアルバイトをしていたことがある。

遺品整理業者の仕事は大きく2つある。
一つは特殊清掃と呼ばれる。
孤独死したり親類と離れて暮らす人は、死後、発見が遅れることがある。
腐敗した遺体は、排泄物や体液が混ざり、強烈な異臭を放ち物件に跡を残す。
特殊清掃は、遺体発見が遅れた物件を清掃して回復させる仕事だ。
もう一つは、遺品の整理だ。
故人の残した遺品を買い取ったり処分したりする。

部屋の清掃を行い遺品をトラックに積み込むの繰り返しなので、かなりの体力仕事だ。

他のバイトより多少給料がよかったので、奨学金をもらいながら大学に通う身としては、ありがたいバイトだった。
けど、大学3年の春、僕は恐ろしい体験をすることになる。

その日、遺品整理に向かったのは、築40年程の木造アパートだった。
トタン板の屋根に黒ずんだ外壁。かなり年季が入った物件だとわかった。

亡くなったのは、このアパートに長年住んでいた70代のおじいさんだそうだ。
身寄りがない孤独死。
死んでから、異臭が漏れ出るまで、2週間ほど発見されることはなかった。

部屋は和室の2DKだった。
古びた畳に万年床が敷きっぱなしになっている。
敷布団に、墨をまき散らしたみたいな黒ずみがはっきり残っている。
よく見ると人型になっているのがわかる。
遺体がここで長時間放置されていたのだ。
マスクをしていても部屋に残った死臭は強烈だった。

僕はアルバイトだったので遺品の運び出しが主な仕事だった。
特殊清掃をする社員さんを横目に遺品を運び出して外のトラックに積み込んでいく。
家財や所持品が少なかったので、1時間もしないうちにだいぶ片付いてしまった。
あとは襖の中の荷物だけ。
襖の戸を開いて、僕は驚きのあまり腰を抜かした。
襖の中の暗闇に人が座っていたのだ。
足を両腕で抱え込んだ、いわゆる体育座りをして、ダンボールとダンボールの隙間に、その人物は座っていた。
顔は影になっていて見えないけど、骨と皮だけの細い手足はかなりの高齢の人のように見えた。
おそらくは、この部屋で亡くなった老人に間違いない。
僕は腰を抜かして這いずるように後退した。
老人の幽霊は、身動きせずずっと座っていた。

僕は助けを求めるように、清掃をしている社員さんの方を振り返った。
でも、助けを求めようと思うのに、口がパクパク動くだけで、声が出ない。
ようやく異変に気付いた社員さんが僕の方を見た。
「アレを見てください」
声には出なかったが、僕はなんとか襖に向かって指を指して、異常を伝えた。
けど、襖の方を再び振り返って見た時には、老人の幽霊の姿は煙のごとく消えていた。
社員さんは、苦笑して言った。
「見たんだろ?・・・今日、まっすぐ家帰らない方がいいぞ。連れ帰っちまうから」

アドバイスされた通り、
僕はその日の仕事を終えると、
お腹がすいていたわけではないけど、
ファミレスに立ち寄った。

遺品整理という仕事柄、恐怖体験や怪談話はよく耳にしていたのだけど、まさか自分の身に起こるとは思わなかった。

いつも以上にひどく疲れていた。
案内されたテーブルに座り、メニューを見ていると、店員さんが水を運んできた。
僕の分となぜか僕の向かいの席にも店員さんが水を置いたのを見て、寒気が走った。
僕は注文もせずその店を後にし、別のファミレスに入った。
しかし、そこでも水が2つ運ばれてきた。
その後、数店舗回って、ようやく2つの水が用意されなくなってから、僕は自分のアパートに帰った。

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