僕の実家は地方の山の中にあって、
交通の便がかなり不便だ。
車を持たなかった頃は、
1時間に1本のバスを使って学校がある山裾まで降りていかないといけなかった。
最寄のバス停まで家から歩いて15分ほど。
車通りがほとんどない峠道にバス停はあった。
あれは高校2年の夏休みだった・・・。
夜遅くに高校の友達から電話があった。
「いまから遊びに来ないか」
バスの時刻表を見ると、残りは20分後の最終便を残すだけだった。
僕は急いで出かける準備をしてバス停へ走った。
街灯がない真っ暗な峠道を小走りに登っていくと、バス停が見えてきた。
僕以外に最終バスを待っている人はいなかった。
ひぐらしの鳴き声を聴きながらしばらく待つと、バスがやってきた。
バスが来るまで他の車は一台も通らなかった。
バスはガラガラだった。
僕は真ん中の席に座った。
一番後ろの席に女性が座っていた。
僕より少し年上だろうか。
前に向き直って、「アレ?」と思った。
一番前の席に運転手さんと同じバス会社の制服を着た男の人が乗っていた。
まるで、ドライバーが2人いるかのようだった。
今までそんなことがなかったので不思議に思った。
たまたまバス会社の人が乗客として乗り込んだということなのだろうか。
バスは峠道をくねくねと下っていった。
途中のバス停からは誰も乗り込んでこない。
乗客は少ないのに、息苦しいような圧迫感があった。
前に座るバス会社の制服を着た男性が気になって、どうにも違和感を覚えた。
背中を向けていて表情が見えないぶん、余計に気味が悪いというか、不安を掻き立てられた。
ようやく周りが明るくなってきた。
街の中に入ったのだ。
ふと、後ろを振り返って「えっ?」と思った。
一番後ろに乗っていた女性客がいつの間にかいなくなっていたのだ。
一度も停留所に留まっていないので、途中で降りたわけがない。
わけがわからないまま、目的地の停留所にたどりついた。
僕は慌てて立ち上がり、後ろを気にしながら、
乗降口へ向かった。
バス会社の制服を着た男の人の横を通りかかった時、いきなり声をかけられた。
「なあ」
僕はビクッと身体をすくませた。
「君も見てしまったんだろう。最終バスはあまり使わない方がいいよ」
・・・後で知った話だけど、最終バスに乗る女の人の幽霊を何人もの人が目撃しているのだという。
特にドライバーさんは不気味がって最終バスを運転したがらなくなってしまったので、最終バスだけ、ワンマン運転ではなく車掌さんが同乗しているのだそうだ。
僕に声をかけてきたもう1人の制服の人は、車掌さんだったのだ。
それ以来、僕は一度も最終バスを利用していない。
最近、バス会社のダイヤ改正があり、
僕の実家近くを通る路線は廃止されてしまった。
それからというもの、バス停があった場所でバスを待つ女の人の幽霊の目撃談が増え始めてきている・・・。
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