【怖い話】ズン!


俺の家は田舎の山の中にある。
高校への通学路の半分以上は街灯がほとんどない雑木林だ。

この前、夜に雑木林を自転車で帰っていたら事故現場に遭遇した。
大きくひしゃげたボンネット。
車の持ち主が警察の人に必死に説明している。
「だから、本当に人がいたんですよ!」
「けど、誰もひかれてないじゃないの。歩いて帰ったっていうの?」
「車から降りた時には、誰もいなかったんですよ」
その会話に、ん?と思ったけど、
立ち止まるのも変だし、そのまま自転車を走らせていた。

事故現場から数百メートルほど走った時だった。

ズン

急に自転車の荷台が重たくなった。
登り坂でもないのにペダルはギアを3段階くらい上げたみたいに固く、
前に進まない。

・・・荷台に何かいる。
振り返るまでもなくわかった。
けど、自転車を止めて確認してしまったら、
荷台にいる何かに、
俺が存在に気づいていることを知らせてしまう気がして振り返れなかった。
その時、耳元に生温かい吐息を感じた。

はぁ〜〜〜

長く深い溜息のような吐息。
荷台の何かは振り返らせようとしている。
冷や汗が背中をつたうのがわかった。
意地でも振り返ったらいけない。
そう思い、俺は必死にペダルを漕ぎ続けた。

雑木林を抜けると、スッと荷台が軽くなった。
いなくなった・・・。
勇気を出して振り返ると何もいない。
よかった。
ホッとして前に向き直ると、、、

ズン!

今度は背中が重たくなった。
誰かが俺の背中におぶさってきた。
耐えられない重さだった。
俺は反射的に振り返ってしまった。

目の前に女の人の顔があった。
顔がくっつくほどの距離だ。
骸骨のように痩せている。
虚ろな灰色の瞳は、死んだ魚のようだった。

その後の記憶はおぼろだ。
転倒して動けなくなっていたところを、
先ほどの事故現場で検分していた警察の人が通りがかり、
助けてくれた。
事情をありのままに説明すると、警察の人は呆れたように言った。
「君もおかしなモノを見たっていうのか。だから誰もいないじゃないか」
けど、その時、俺は見たような気がする。
そう言う警察の人の背中に、髪の長い女の人がおぶさっているのを・・・。

俺が通学路で怖い思いをしたのは、その日だけだ。
けど、今でも稀に、その道で交通事故が起きると耳にする。

#400

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