【怖い話】自首してきた女

 

これは警察に勤めていた友人から聞いた怖い話。
友人の名前は仮にBとしておく。

Bが2年目の時だったという。
地域課の巡査だったBは、その日、交番で夜勤についていた。
夜もだいぶ深まった頃、先輩の巡査部長がパトロールに出かけ、一人になる時間があった。
2年目といってもまだまだ気持ちは新人だったBは、とても心細かったけど、少しの我慢だと思うことにした。

しばらくして、春物のコートを着た30代くらいの女性が入ってきた。
酔っぱらいだろうか。
頭が力なく下がっていた。
「どうしました?」
Bがたずねると、女性は俯いたままつぶやいた。
「・・・人を・・・殺しました」
心臓が口から出そうなくらいBは驚いた。
殺人事件を扱うのは初だった。
しかも、こんな唐突に、自首という形は想像だにしなかった。
動揺しない方がおかしい。
とにかく女性を落ち着かせよう。
それから、パトロール中の先輩に無線連絡して、本部に報告をあげよう。
頭の中でやるべきことを思い浮かべながら、Bは女性にたずねた。
「・・・誰を殺したんですか?」
すると、女性はコートをまくりあげ、腕を見せた。
Bは絶句した。
女性の手首が血管に沿って一直線に切られていた。傷口からゴボゴボと血が溢れていた。
「・・・私です」
Bは、そこで気を失った。

意識を取り戻すと、仮眠室で先輩に介抱されていた。
何があったのか聞かれたので、ありのままを話した。
女性が殺人を告白したので、誰を殺したのかたずねたら、リストカットした手首を見せられ、「私です」と言ったと。
思い出して話すだけで、震えが止まらなかった。
けど、Bにとっての真の恐怖はその後の先輩の一言だった。
先輩はBの話を聞きおえると、笑っていった。
「なんだ。よかったじゃないか、それくらいで済んで。これから、もっと怖い体験が待っているから楽しみにしとけよ。それから、非番の日にお祓い行っとけ」
まるで天気の話題をしているみたいな軽い調子だった。
それからすぐBは警察をやめ、会社員になった・・・。
これから、あれ以上の恐怖体験が待っているのだと考えたら辞めた方がましだと思ったのだという。

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