廃墟マニアが体験した怖い話 #267

 

僕は、廃墟の写真を撮るのが好きで、ときたまフラッと一人で廃墟を訪れたりする。
けど、そういう場所は、いわくつきだったりすることが多く、怖い思いをした経験が何度かある。
そのうちの一つを今日はお話しようと思う。

その日、訪れたのは、Y県のホテルの廃墟。
山の中に何年も放置されたホテル跡があるという情報を得て撮影にきていた。
肝試しをしにきたわけではないから、もちろん日中だ。

峠道から分かれたホテル専用の道路を5分ほどあがった行き止まりに目指すホテル跡が建っていた。

5階建てで、客室は50室以上あったのだろう。
いかにもバブル期に建てられ経営不振でつぶれたホテルという外観だった。
外壁は黒ずみ、窓ガラスはほとんど残っていない。

建物全体を何枚か撮影する。
伸びた藪の生命力と建物の退廃感のコントラストを出そうと苦心した。
「廃墟は突き詰めると死の象徴」
シャッターを切りながら、そんなフレーズが頭に浮かぶ。

何年も伸び放題だった藪をかきわけながら進むと、エントランス前の車寄せに出た。
そこからロビーに入る。

中は想像以上に荒れていた。
枯れ葉の絨毯と壊れた調度品の数々。
古い遺跡のような雰囲気を醸し出していた。

ロビーで何枚か撮影していると、上階の方から何人かの若い女の子の笑い声が聞こえた。
自分以外にも誰か撮影にきているのかもしれない。
廃墟好きは以外と多く、鉢合わせはよくあるのだ。
または、こんな日中から肝試しにきている人達か。

特に下調べはしてきていないけど、有名な心霊スポットなのかもしれない。
心霊スポットだとわかってしまうと、どうしても撮影に行くのをためらってしまうので、僕は事前にあまり調べないようにしていた。

再び若い女の子達の笑い声が聞こえた。
階段の上の方からだ。

鉢合わせるのも面倒だなと思い、1階から見ていくことにする。
かつてはレストランとして使われていたであろう大きな部屋に出た。
壊れたテーブルがあちらこちらに転がっている。

その時、再び女の子達の笑い声がした。
レストランの奥の厨房の方からだ。

・・・おかしい。
ついさきほどまで上の階にいたはずなのに、あっという間に降りてきて、僕より先にいるなんて、変だ。
それに、彼女達の笑い方には、どこか違和感があった。
笑い声に変化がないのだ。話しの流れで笑いが生まれたのであれば、笑い声も毎回変わるはずだ。
なのに、彼女達の笑い声は、録音テープを繰り返し流しているみたいに一定だった。

ここはやはり危ないスポットなのかもしれない。引き返そうと振り返った時、笑い声がすぐ2、3m後ろから聞こえた。
一瞬で間を詰められた。
人間業とは思えない。

僕は走って逃げた。
来た道を引き返す。
走りながら振り返ると、何もない空間から笑い声が上がっているのがはっきりわかった。

心臓が悲鳴を上げていたが、それでも走った。
笑い声は後ろから迫っていた。
さっきより近づいてきている気がする。

ロビーに出た途端、すぐ真後ろから笑い声がした。
追いつかれる、そう思った時、今度は前から笑い声がした。
先回りされてしまった。

僕は怖くて、頭を抱えて、うずくまった。
咄嗟に身を守ろうと身体が反応したのだろう。

すると、ピタッと笑い声は止まった。
1分くらい何も起きなかった。
もう大丈夫なのだろうか。

そう思って、頭を上げた瞬間、自分の声とは思えない悲鳴が口から出た。
無数の灰色の顔をした人達が、僕を取り囲み、覗き込むように僕を見下ろしていたのだ。
老若男女混じっていた。
全員、目があるはずの場所に、黒い穴がぽっかり開いていた。

気がつくと、病院だった。
たまたま肝試しにきたグループが、気を失っていた僕を発見してくれたらしい。

廃墟に現れた彼らは何者なのか。
それは今もってわからない。
その廃ホテルで撮影した写真は、何が映っているのか知るのが怖くて、いまだに現像できていない・・・。

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