【怖い話】【心霊】第182話「偽心霊写真」

2017/10/06

 

深夜の公園でピースサインするグループ写真。その写真データに人の顔のようなモヤを合成する。
簡単に心霊写真のできあがりだ。
夏になり、僕が務める制作会社には、最近この手の依頼が多い。クライアントはテレビ局だったり、出版社だったり。最近はSNSが発展したので個人からの依頼もまれにある。
合成かどうかはあまり問題じゃない。少し肝が冷えればいい。もはや怪談は夏の風物詩的な存在だ。
某テレビ局が真夏の心霊写真特集をやるらしく、フェイク心霊写真の作成に追われていた。毎回、人の顔のようなモヤの映り込みではおもしろくないから、頭を悩ませて、工夫を凝らしていた。
「これ、いいっすね」
後輩のFがパソコンのモニターを覗いて言った。
市営プールで遊ぶ子供達を撮った写真。
子供の一人の手を消す加工をした。
それほど工夫をしたつもりはなかった。
「そうか?ありきたりじゃないか」
「だって、2ヶ所もあるじゃないですか。この手が消えているのと思わせといての、水中の顔!」
後輩が写真のプールの水面を指差した。
目を疑った。
水中から子供達を恨めしそうに睨む女の顔が写っている。
加工した際には気がつかなかった。
「俺じゃない、これ、本物の心霊写真だ」
「まじっすか!?すげえ」
まさか、本物の心霊写真が紛れ込んでいるとは思わなかった。余計な加工の必要などなかったではないか。
しかし、本当に心霊写真が実在するとは。偽物ばかり作ってきた身としては驚きしかなかった。
本当に合成じゃないのか、女の顔の部分を拡大してみてみた。
境目が実になめらかだった。加工だとしたら相当な腕の持ち主に違いない。
その時、拡大した女の目が一瞬、動いた気がした。
息を呑んだ。目をこすってしっかりともう一度見た。
いくらたっても女の目は動かなかった。
連日の残業続きで疲れてるんだ、きっと。
考えとは裏腹にマウスを操作していた手の平は汗でべっしょりだった。
今日の全ての仕事を終えると12時近くになっていた。いつの間にかオフィスからひとけがなくなっていた。電気がついているのは自分のデスクの周りだけ。真っ暗なステージの中、自分にだけスポットライトが当たっているかのようだった。
聞こえるのはサーバーが立てるブーンという音だけ。
急に心細さに襲われた。早く帰ろうと思ってデスクを片付け、パソコンをシャットダウンしようとした。
しかし、エラーが出てシャットダウンがうまくいかない。
「使用中のファイルがあります」のメッセージが何度も出た。
対象のファイルを見てみた。
例の市営プールの心霊写真の画像ファイルだった。
ファイルを閉じようと、×印を押すが、何度押してもエラーで弾かれ、閉じることができない。
その時、ハッと気がついた。
水中から子供達を睨み付けていた女の顔が消えている・・・。
見間違いではなかった。
はっきりと消えていた。
自分は何の加工も施していない。
なのに、なぜ・・・。
写真が勝手に変化したとでもいうのか。
まるで心霊写真が生きているかのようではないか・・・。

ピチャッピチャッ

その時、どこかからか水滴がごぼれ落ちる音が聞こえた気がした。給湯室かトイレに違いない、気にするな。頭ではわかっているのに、耳から音が離れない。
ピチャッピチャッピチャッ
心なしか、音が大きくなっている気がした。こちらに近づいてきている?気のせいだろうか。

ピチャチャチャッ

・・・いや、勘違いなどではない。水滴の音は確かにこちらに近づいてきていた。
全身に悪寒が走った。汗が噴き出し、両腕に鳥肌が立った。身体が鉛のように重く、金縛りにあったのようだった。

ピチャチャチャチャチャチャッ

水音は加速しこちらに向かってきていた。
叫び声を上げそうになるのをこらえ、考えた。
どうすればいい?どうすればいい?どうすればいい?
そうだ、パソコン!咄嗟に電源ボタンを長押しして強制終了した。
ブツンと電源が切れた音と同時に水滴の音も途切れた。すぐ真後ろにまで音は近づいていたような気がした。
オフィスの張りつめた空気が緩んだ感覚があった。
・・・よかった。汗をタオルで拭いた。タオルを握る手はガタガタと震えていた。

ポタッ

手の平に何かが触れる感触があった。
見ると水の玉が手のひらに乗っていた。
天井から?
反射的に上を見上げた。

気がつくと朝になっていた。オフィスに倒れているところをFに発見され、揺り起こされたのだ。
昨日、何かを見たのは間違いないのだか、何を見たかまったく思い出せなかった。
思い出さない方がいいのだろうが・・・。
奇妙なことにパソコンから例の市営プールのデータは消えていた。
いまだに水滴な音を聞くとあの夜を思い出す・・・。

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