第107話「バレンタインの怖い話【贈る編】」
2018/02/13
明日は2月14日。私の運命の日。
今年は初めてチョコレートを贈ろうと思う。
クラスの男の子だけじゃなく女子にも渡すつもりだ。
私は、明日を境に生まれ変わるのだ。
今までは暗くジメジメとした毎日だった。
教室の隅で1日中誰とも話すことなく、
存在しないような生徒だった。
先生からも忘れらているような哀れな子。
そんな自分からは卒業するのだ。
そう強く決意したのはお母さんのようになりたくないと思ったからだ。
お母さんは働きもせずに、いつもお酒を飲んで寝ていてばかり。
何かとあれば別れたお父さんや世の中のせいにして、自分を変えようとはしない。
将来、この人と同じような人生を送るのかと思うと辟易した。
私はお母さんとは違うのだ。
これからは友達も作って、明るい青春時代を送るんだ。
今まで料理なんてしたことはないしお菓子なんてもっての他だったけど、
ネットを見ればチョコレートの作り方なんていっぱい載っていた。
こういうのは感覚でしょ?教えてもらえる人なんていないのだから仕方ない。
私は、一人っきりでチョコレート製作をがんばった。
台所をガサガサ探れば材料や調味料はだいたい揃った。
お母さんが自分のために買ったものばかりだけど。
私のためには何一つ買ってくれないくせに自分のことは甘やかす。
そういう人なのだ。
2月14日。
「これ、よかったら・・・」
笑顔はこわばっていたけど、私は頑張ってチョコレートを配っていった。
昨日まで存在しない女子から声をかけられて、みんな初めは戸惑っていたみたいだけど、私の努力を評価してくれたみたい。
だんだんと打ち解けてきて、快く受け取ってくれた。
やっぱり自分が変わろうと思えばよかったのだ。
お母さん、見てる?私はあなたとは違うんだよ。
・・・あれ?何かおかしい。
私のチョコレートを食べた人たちが気分悪そうにしている。吐いたり、泡を吹いて倒れたり、意識を失ったり。
・・・どうして、どうして?
みんなの視線が痛い。
・・・いや、そんな冷たい目で見ないで。
みんな、私が毒を入れたと言っている。
そんなことするわけがない。私はみんなと友達になりたかっただけ。
警察なんて呼ばないで!
私は逃げた。
家まで走った。頭が働かなかった。
・・・なぜ?私が何をしたというの?
家に帰ると、お母さんがリビングで倒れていた。
青紫になった顔。開いた瞳孔。
一目見て死んでいるのだとわかった。
・・・テーブルの上には、私が香りづけにチョコに入れた小瓶が置かれていた。
ああ、お母さん。私もお母さんと同じなんだね。
どうしたって上手くいかない運命なんだ。
やっぱり私たち親子だね・・・。
私は自分で作ったチョコレートのあまりを食べた。
うん。味は悪くない。初めてにしてはいい出来だ。