第29話「防犯カメラ」

2018/03/02

これは、私がオーナーを勤めるコンビニで起きた恐怖の出来事だ。

ある日の深夜3時頃。
私は、バックオフィスでアルバイトの子達の勤怠データを取りまとめていた。
夜勤シフトの子が体調不良で早退してしまったので、その日は、朝まで一人きりだった。
6時になれば妻が朝食を持ってきて交代してくれるので、眠気と闘うのもおよそ3時間の辛抱だった。

ふと、デスク奥に設置された防犯カメラの映像に目をやり、私は眉をひそめた。
店内にいるお客さんは一人だけ。会社員風の男性が、カメラに背中を向けて雑誌横の通路に立っていた。
その様子が変だった。雑誌や陳列棚の商品を見るわけでもなく、ただ突っ立っているだけなのだ。
しかも、5分ほど前に一度確認した時もまったく同じ姿勢だった。

万引きか・・・?嫌な想像がよぎった。
つい先日も怪しい動きをする男がいて、店の外で声をかけると逃げ出したので、追いかけたが、見失ってしまった。
また、あいつか?
私は、立ち上がりレジへ向かった。
・・・しかし、男はいなくなっていた。
私がバックオフィスから店内に向かう一瞬のうちに店の外へ行ってしまったようだ。
やれやれと首を振り、再びバックオフィスに戻った。
座って、カメラを確認すると、画面に再び男が映っていた。
さっきとまったく同じ姿勢でカメラに背中を向けて立っている。
まさか、戻ってきたのか?
私は慌ててレジへ出ていった。
すると、やはり、いない。
狐につままれたような気分で、私は店内をグルッと回ってみたが、男はどこにもいなかった。
念のためトイレも確認したが、誰も入っていなかった。

何かおかしいと思いつつ再び防犯カメラを見ると、映像にははっきり通路に立つ男の姿が映っているではないか。
防犯カメラの映像にだけ映る男・・・。背筋が急に寒くなった。
その時、背中を向けていた男がゆっくりと振り返った。
粒子が荒いカメラ映像越しにも、男の顔の異様な青白さがわかった。
震えが止まらなくなった。
男はゆっくりレジの方へ向かってくる。
このままだと私がいるバックオフィスまで来てしまう。
私は、咄嗟に、モップを手に取ると、勇気を振り絞ってレジへ出ていった。
が、男の姿は店内のどこにも見当たらなかった。
その代わり、レジに雑誌と飲み物とおにぎりが置かれていた。
まるで、幽霊が買い物をしようとしたとでもいうように。
恐い気持ちが少しだけほぐれた。
私は、商品をレジで打つフリをした。
「お会計は、658円になります」
返答はなかった。それもそうだ。
苦笑を浮かべるしかなかった。

その時、急に、誰かが背後から強い力で抱きついてきた。
まったく身動きできない。恐怖が全身を駆け抜けた。
私は、目だけで背後を確認した。
血走った眼をした青白い男の顔が真横にあった。
「・・・オレは盗んでねえよ」
男は、囁くような声でそう言って、忽然と消えた。
私は、その場にへたり込んだ。
男の顔に見覚えがあった。
先日、万引き犯だと疑って追いかけた男に違いなかった。

後日、警察に確認をしてみると、私が万引き犯だと疑って追いかけた男は、逃げる途中で交通事故にあい死亡していたことがわかった。
私は、何もしていない男に疑いをかけ、結果、死に追いやってしまったらしい。
不慮の事故とはいえ、男の無念を思うと、申し訳なさでいっぱいになった。

私は、男の墓前で謝罪し、どうか安らかに眠って欲しいと冥福を祈った。
だが、今でもときおり、私が夜勤の時には防犯カメラに彼の姿が映るのだった・・・。

 

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